本の紹介:誤嚥性肺炎50の疑問に答えます
2021年 12月 06日
誤嚥性肺炎のプロフェッショナル、吉松先生と山入先生の共著です。おや、帯に「呼吸器内科医 倉原優先生大絶賛!」と書いていますね。これまで出版社とのからみは著者の立場ばかりだったのですが、ワイもとうとうついに帯に載ったぜ!
著者:吉松 由貴 先生、山入 和志 先生
実はこの本の「推薦のことば」を書かせていただいていまして。大学の有名教授が「巻頭の序」を書く、あんなヤツです!この本の素晴らしいところは、Q&A方式で、みんな悩むよねでも答えないよね、という問題に顔面でぶつかって書いてくれているところです。誤嚥に対する熱量がマグマな2人。
「推薦のことば」
もともと緩和ケアを目指していた呼吸器内科医である吉松医師と山入医師の雄編です。淀川キリスト教病院の元同僚であり、全人的医療を当たり前のものとして血肉にしてきた二人です。中を歩くだけで全体からハートウォーミングなオーラが出ている病院で切磋琢磨した二人の高齢者医療に対する熱意はただならぬものを感じます。
まったくの余談ですが、私は医学生の頃、淀川キリスト教病院に憧れていて、同病院のマッチングの筆記試験と面接を受けたことがあります。あまりに人気だったため(応募は200人を超えていたと思う)、まったくマッチ上位に入れなかった記憶があります。
今後、市中肺炎よりも遭遇する頻度が高い疾患が誤嚥性肺炎です。高齢化社会を迎えるにあたり、どの診療科も避けては通れません。20年前の医師国家試験なら「絶食」、「アンピシリン/スルバクタム」を選べば正解がもらえましたが、今の医療現場では違います。絶食、安静臥床、抗菌薬というモノトーンな誤嚥性肺炎診療は前時代的となったのです。
「医師が指示しても、リスクが高いから他職種は食べさせたくないという」、「絶食にしないと、再度誤嚥したときにインシデントになってしまう」、「老衰だからあまり無理させたくない」など、医療従事者側にはいろいろな思いがあるでしょう。私も「自分の家族ならこうしたいけど」と本音を持っていても、医療安全的な側面を考慮して対応しなければならない病院側の事情もよくわかります。落としどころに迷って「絶食、内服時のみ飲水可」という指示を出している医師もいるかもしれません。しかし、本書ではその矛盾点を優しく指摘しています。私も、誤嚥性肺炎の患者さんから幾度となく「死んでもいいから食べたい」と言われたことがありますが、呼吸器内科医になったばかりの頃「それはだめです」と言ってしまった対応を、今でも悔やんでいます。
誤嚥性肺炎は、個々の医療従事者だけでなく病院全体のポリシーが問われる疾患です。多職種が集まって、協力してゴールに向かって歩き出さねばいけません。ただ肺炎を治療するだけでなく、退院後の生活を考え何度も話し合わなければ、解決できない問題がたくさんあります。
私にとって、誤嚥性肺炎とは、どちらかといえば医療者が苦しい思いをして対峙する疾患だと思っていました。しかし、著者の二人は決して悩み苦しみ抜く疾患として捉えておらず、患者さんに何ができるだろうかという突破口を見つけることをまるで楽しみにしているかのような、前向きな姿勢です。
たぶんそれは、「何を以て誤嚥性肺炎の治療と成すか」について、見えている景色が私たちと少し違うからかもしれません。であれば、一度本書で視点を変えてみませんか。
国立病院機構近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科 倉原優
by otowelt
| 2021-12-06 00:34
| 呼吸器その他