肺アブセッサス症に対する抗菌薬のMIC分布
2021年 12月 09日
複十字病院からの論文です。ワンポイントのMICだけでなく、治療前後のMICも比較されており、面白い論文ですね。イミペネムとアミカシンが感受性に変わった人がいるのですが、これは再感染をみているだけなのでしょうか。
NTM治療薬におけるMICブレイクポイントは肺炎球菌のようにスッキリいかない部分があって、まだまだ議論の余地がある分野ではあります。
NTM治療薬におけるMICブレイクポイントは肺炎球菌のようにスッキリいかない部分があって、まだまだ議論の余地がある分野ではあります。
M. abscessus症全般に対して、初期強化治療で用いられているイミペネム・アミカシンは比較的感受性が良好で、M. massiliense症に対してはマクロライドが良好な結果でした。アジスロマイシンよりもクラリスロマイシンのほうが良好な結果でしたが、前者はCLSIがコンセンサスあるMICブレイクポイントを出していなかった気がします。なお、国際ガイドラインではクラリスロマイシンよりもアジスロマイシンの使用が推奨されています。
実臨床では内服治療として、マクロライドにシタフロキサシンを加えることが多いのですが、これとクロファジミンのMICも低めという結果でした。興味深いことに、シタフロキサシンのMICはM. abscessus症のほうがM. massiliense症より良好に見えますね。
しかし、ファロペネムはMIC分布をみる限り、結構きついですね・・・。
- 概要
■肺Mycobacterium abscessus(MABS)のMIC分布パターンや実地臨床における対応に関して、まだ情報が不足している。2019年5月から2021年3月までに診断された肺NTM症92人から分離された迅速発育菌のMICを後ろ向きに解析した。抗酸菌塗抹および培養は標準的な方法で実施した。分離菌は、MALDI TOF-MSを用いて同定し、MABSの亜種は、マルチプレックスPCRを用いて同定した。MICは表の14薬剤で実施し、感受性はCLSI M62と文献での値を参考に評価した。
■患者の86人(93.5%)がMABSに感染しており、46人がMycobacterium abscessus subsp. abscessus(Mab)、40人がMycobacterium abscessus subsp. massiliense(Mma)に感染していた。
■クラリスロマイシンに対しては36株(41.9%)のMABSが誘導耐性を示し、10株(11.6%)が獲得耐性を示した。MabとMmaにおいて、クラリスロマイシン(15.2% vs 80.0%,P<0.001)とアジスロマイシン(8.7% vs 62.5%,P<0.001)に対する感受性に有意差が確認された。
■大部分の分離株がアミカシン感受性で(80人;93.0%)、半数以上の分離株がリネゾリドに感受性を示した(48人;55.8%)。イミペネムに関しては4分の1の22株(25.6%)しか感受性を示さず、半数以上の56株(65.1%)がIだった。
■シタフロキサシンのMICは51株(59.3%)が<1 μg/mLであり、モキシフロキサシンのMIC(5株;5.8%)よりも良好で、特にMabでよかった。モキシフロキサシンに感受性を示した分離株は5株でMIC値は<1μg/mLのため、肺MABS症の治療に有効ではなさそうに思われる。
■65株(75.6%)はクロファジミンに対するMICが<0.5 μg/mLで、<0.25μg/mLは23株(26.7%)だった。90%以上の分離株がトブラマイシン、メロペネム、レボフロキサシン、ST合剤、ドキシサイクリンに耐性を示した。
■クラリスロマイシンに対しては感受性から耐性へ、アミカシンとイミペネムに対しては耐性から感受性へと、明らかにMICが変化した患者が2人いた。
by otowelt
| 2021-12-09 12:22
| 感染症全般