抗酸菌分離培養:液体培地と固形培地

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結核菌の培養・薬剤感受性試験に用いられる培地は、液体培地と固形培地に大別されます。

結核菌は遅発育菌です。固形培地で3週間~2ヶ月、液体培地で1~4週間かかるため、できるだけ早く菌の情報を明らかにする必要があるわけですが、固形培地だけだととにかく時間がかかります。そのため、液体培地を使う必要があります。

液体培地は、Middlebrook 7H9 BrothをベースにしているBDバクテックMGIT(ベクトン・ディッキンソン)やBACT/ALERT 3D(シスメックス・ビオメリュー)(自動培養システム)などがあります。MGITでは、菌の発育に伴い液体培地中の溶存酸素が消費されます。センサー部に結合していた酸素が遊離するため、センサー部がオレンジ色の蛍光を発するようになります。

固形培地は、教科書にもよく書かれている卵をベースとした小川培地が最も多く用いられています。1949年小川辰次先生らによって考案されたもので、長らく結核予防法や衛生統計に利用されていました。現在でも非常に重要な培地ですが、液体培地の国内導入が遅れてしまった一因であるとも指摘されています。

小川先生が培地を考案される前は、代表的な卵培地としてPetroff、Petragnani、Löwenstein、岡・片倉といった培地が知られており、日本ではこのうち岡・片倉培地が用いられていました。小川培地がどのようにしてできたのかは、考案者である小川先生の半世紀前の記事が参考になります1),2)。小川先生は「私どもが、培地そのものを考案したと考えておられる方が多いようであるが、新しく結核菌の定量培養法を考案したということで、小川培地はその方法を実施するために作った二義的なものであるとご了解願っておきたい」と書かれています1)

岡・片倉培地は、原液(KH2PO4 1g、Na2HPO4 1g、味の素1gを蒸留水100mLに溶解)、鶏卵液200 mL(全卵4個、卵黄1個)、グリセリン6mL、2%マラカイトグリーン6mLを混和・濾過し、試験管に5~7mL分注後、血清凝固器またはKoch釜で85℃・80℃・80℃、各40分で間欠滅菌したものです。小川先生は、岡・片倉培地の成分について、KH2PO4を除去すると菌の発育がないこと、Na2HPO4を除去すると多少菌の発育がよくなること、味の素は影響がないこと、グリセリンは1~5%間では発育に差がないこと(10%だと多少抑制される)、小川は85~90℃・60分1回の滅菌のみでよいことなどを明らかにしました3)。これにより1.0%小川培地は、原液(KH2PO4 1g、味の素1gを蒸留水100mLに溶解)、全卵液200 mL、グリセリン6mL、2%マラカイトグリーン6mLとし、90℃60分滅菌にて対応しました。KH2PO4の量が小川培地の%にそのまま反映され、を2.0g添加すると2%小川培地、3.0g添加すると3%小川培地になります。

抗酸菌は、他の混在菌よりNaOHに対して強い抵抗性を有することから、NaOHによる前処理をおこなってきました(※)。抗酸菌もそれなりに傷害されるため、増殖支持性が低い小川培地では、特に非結核性抗酸菌のうち迅速発育菌の検出率が低下してしまうというデメリットがあります。液体培地では、用手的だと検査に伴う抗酸菌の拡散リスクが高いことや、液体培地に抗酸菌が複数混在した場合、コロニー形成がある固形培地に比べ見逃しリスクが上がるというデメリットがあります。小川培地は、安価である上、乾燥に強く場所もとらないので、培養や保存の取扱いが容易というメリットがあります。

※2000年に、前処理法としてN-アセチルL-システイン・NaOH(NALC-NaOH)の使用が推奨されました。しかし、NALC-NaOHだと、抗酸菌以外の菌汚染率が高くなることが指摘されたことから、2007年にNALC-NaOH汚染除去の前に蛋白分解酵素セミアルカリプロテアーゼ(SAP)処理が加えられることになりました。


液体培地は固形培地よりも検出時間が短く、検出感度も良好です。抗酸菌塗抹量が少ないのに、液体培地で生えてきたというケースはしばしば経験されます。では、結核菌の検査がすべて液体培地ではだめなのかというと、コストがネックになります。液体培地と小川培地では、約4倍のコスト差があります。「すでに結核菌と分かっていて感受性が判明している」ケースでは、液体培地を積極的に用いる必要は乏しく、小川培地で陰性化を確認するのが一般的です。

そのため、診断初期においては最速で菌の分離培養と薬剤感受性を1ヶ月以内に完遂させるために液体培地を用います。液体培地では、固形培地と比べて抗酸菌の発育が約10日早くなります(MACはかなり早くなります)。抗酸菌塗抹2+で結核菌PCRあるいはLAMP陽性なら、その先は高いコストを払って液体培地を複数回用いる必要はありません。


(参考文献)
1) 小川辰次. 小川培地のできるまで. 検査と技術. 1975; 3(6): 40-42.
2) 小川辰次. 小川培地と結核菌用寒天培地の作り方と使い方. 日本臨床検査医学会誌 (特9). 1959; 1953-2000.
3) 小川辰次, 佐波 薫.結核菌の定量的培養法についてその1)菌浮遊液を培養する場合. 結核. 1949;24:13‒18.



by otowelt | 2022-01-16 00:47 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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