インターフェロンγ遊離試験(IGRA)の落とし穴:陽性的中率と陰性的中率

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■インターフェロンγ遊離試験(IGRA)の落とし穴
皆さんの施設ではどのインターフェロンγ遊離試験(IGRA)が用いられているでしょうか。クォンティフェロン(QFT)あるいはT-SPOTのいずれかが用いられていると思います。

QFTは結核菌特異抗原により全血を刺激した後、Tリンパ球から遊離されるサイトカインであるIFN-γの量を測定します。QFTは自動で検査することが可能であり、大量の検体処理に適しています。一方、T-SPOTは、末梢リンパ球リンパ球をT-SPOT専用の培養プレートに添加し、標識抗体を感作させた後、IFN-γ産生細胞のスポット数を測定するものです。採血スピッツ本数や採血量の規定が厳しくないため、現場レベルにおいてはQFTよりも容易で、溶血や乳びの影響を受けにくいことがメリットと言えます。

さて、LTBI診療において軽視されがちなのが陽性的中率と陰性的中率です。IGRAのような検査は「陽性=感染」、「陰性=非感染」と考えてしまっても、クリティカルな問題はそうそうないのは事実ですが、結核の有病率に大きく結果が依存してしまいます。

感度をかなり高めにしたIGRA(T-SPOTの添付文書にしました)で試算してみましょう。本来は、もっと感度が低めだと思います。


■接触者健診・濃厚接触者など結核有病率を高めに見積もっている場合
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第一同心円で20%という有病率が妥当かどうかはさておき(もちろんこの数値は10%でも構いませんが)、IGRAのように高い感度・特異度を有する検査の場合、結核感染者数がとても多くなるほど、検査のメリットが遺憾なく発揮される感度、特異度ともに高い数値になることから、IGRAは臨床的にもかなり有用と言えます。


■20代の一般集団人口、入職者健診など結核有病率を低めに見積もっている場合
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しかし、有病率が1%のように低い場合はどうでしょうか。これは、20代の一般集団人口、入職者健診などを想定しています。「結核の人はそれほど多くない」という集団においてIGRAを五月雨式に実施してしまうと、当然陽性例が先ほどより少なくなります。そのため、実際に感染がなかった人の偽陽性症例の数とオーダーが近くなってしまいます。するとどうなるかというと、IGRA陽性の陽性的中率はたった52.2%になってしまうのです。ちなみに、感度89%くらいにしぼると、陽性的中率は31%になります。

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つまり、
  • 80歳男性・家族が結核を発病:接触者健診でIGRA陽性
  • 25歳女性・結核接触歴なし:入職者健診でIGRA陽性
といった2パターンを考えるとき、後者は本当に真陽性なんでしょうか、ということです。後者のような人が、職場で何人も見つかってしまったとき、半分くらいは偽陽性かもしれないな・・・と思いつつ診療にあたる必要があります。とはいえ、真陽性か偽陽性かはっきりわからないケースも多いことから、病院勤務の場合LTBI治療が推奨されやすいのも事実です。このあたりは管轄保健所との相談になります。


■結核既感染率の変化に柔軟に対応する
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これから先、結核既感染率は、急激に低下していきます。そのため「高齢者では既感染が多いのでIGRA陽性になりやすい」という教科書的なロジックが通用しなくなる時代がやってきます。既感染率とIGRA陽性率は決してマッチしないのですが、診療する医師がイメージする陽性的中率を柔軟に微調整していく過渡期にあるのは間違いありません。

LTBIを診療する医師だけでなく、多くの病院職員をかかえる産業医も、この知見を頭に入れておく必要があります。



by otowelt | 2022-01-04 08:42 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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