非重症・塗抹陰性の小児結核に対する4か月レジメンは6か月レジメンに非劣性

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非重症・塗抹陰性の小児結核に対する4ヶ月レジメン(2HRZ(±E)+2HR)の72週目のアウトカムが、6ヶ月レジメン(2HRZ(±E)+4HR)に非劣性とするNEJMの論文が発表されました。

4ヶ月まできたか・・・と思うと同時に、再発リスクが高いのではないかという懸念も感じました。

さて、結核治療の歴史について書きたいと思います。1950年代にイソニアジドが結核菌に効果があるとわかった後、ストレプトマイシンやパラアミノサリチル酸を加えることで70~95%の治癒が見込めるものと報告されました。しかし当時の治療は18~24か月と非常に長いメニューでした。この頃から、“治療短縮化”が1つのキーワードでした。発展途上国では治療期間が長期になればなるほど服薬アドヒアランス不良や脱落例が多くなり、結果的に結核の不完全な治療となってしまうためです。

この頃の臨床試験では不運なことにリファンピシンがファーストライン抗結核薬としては使用されませんでした。代わりにストレプトマイシンが長期に投与されるという、煩雑なレジメンが主流でした。その後、ストレプトマイシンあるいはエタンブトールは初期の2か月のみで、合計9か月のレジメンであれば十分効果を発揮することが示されました。ピラジナミドを含まないレジメンが9か月であるという根拠はこのあたりから確立されていきます(Lancet 1976;ii:1102–104.)。

イソニアジドとリファンピシンをキードラッグとして、初期にピラジナミドやストレプトマイシンあるいはエタンブトールを加えることで6か月まで治療期間を短縮できる今のレジメンになったのは、1982年の試験に基づいています。これは「2HREZ+4HRあるいは2HRSZ+4HR」のレジメンと、「2HRE+7HR」の9か月のレジメンを比較した試験です。いずれの群においても再発率は同等という結果でした(Am Rev Respir Dis. 1982 Sep;126(3):460-2.)。

ピラジナミドを含まない9か月のレジメンとピラジナミドを含めた短期6か月のレジメンを比較した試験では、6か月の治療によって早期に菌消失が確認され(治療16週時で94.6% vs 89.9%、率差4.7% [95%信頼区間0.7%~8.7%])、治療完遂率も高いものでした(61.4% vs 50.6%、χ2 = 11.976)。結核の再発率は同等で、ピラジナミドを含めた6か月治療がきわめて有効であることが再確認されました(Ann Intern Med. 1990 Mar 15;112(6):397-406.)。これが1990年の話です。

ピラジナミドを長期に投与すればさらに短縮できる可能性も考えられましたが、ピラジナミドは初期の2か月を超えて使用する臨床的意義がないことがわかりました。2か月、4か月、6か月の投与によって結核の再発率に差がみられなかったのです(Am Rev Respir Dis. 1991 Apr;143(4 Pt 1):700-6.)。


Turkova A, et al. Shorter Treatment for Nonsevere Tuberculosis in African and Indian Children. N Engl J Med . 2022 Mar 10;386(10):911-922.

  • 概要
■小児結核患者の3分の2は非重症であり、現行の6か月レジメンより短いレジメンで治療可能かもしれない。ウガンダ、ザンビア、南アフリカ、インドにおいて、非重症、症候性、薬剤感受性、塗抹陰性結核の小児を対象とした非盲検治療期間非劣性試験を実施した。16歳未満の小児を対象に、世界保健機関が推奨する小児用合剤を用いた4か月(16週)または6か月(24週)の標準的レジメンにランダムに割り付け。主要評価項目は、4か月の治療を完了しなかった参加者を除外、72週までに好ましくない状態(治療失敗[治療の延長・変更・再開・結核再発]、治療中の追跡不能、死亡の複合)とした(修正ITT集団)。非劣性マージンは6%ポイントを使用した。安全性の主要評価項目は、治療中および治療後30日までのグレード3以上の有害事象とした。

■2016年7月から2018年7月までに、合計1204人の小児がランダム化された(各群602人)。年齢中央値は3.5歳(範囲:2か月~15歳)、52%が男児、11%がHIV感染症、14%が微生物学的に確認された結核を有していた(※)。

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※適格基準(文献より引用)

■72週までの治療継続率は95%で、割り付けられた治療のアドヒアランスは94%であった。4か月投与群では16人(3%)に主要評価項目が発生したのに対し、6か月投与群では18人(3%)だった(調整後差-0.4%ポイント、95%信頼区間:-2.2~1.5%)。4か月投与の非劣性は、ベースライン時に結核と判定された958人(80%)に限定した解析を含め、ITT解析、per-protocol解析、主要な副次解析で一貫していた。

■95人(8%)にグレード3以上の有害事象が発生し、そのうち15名が薬剤によるもの(11人が肝障害、うち2名以外は両群で治療法が同じであった初期8週間以内に発生)だった。





by otowelt | 2022-03-12 00:50 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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