結核性咳嗽

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呼吸器内科医なら必ず一度は耳にしたことある話。「年単位の咳嗽があるということで吸入ステロイドを処方され、その後気管支結核だったと診断された―――」。長く呼吸器内科医をやっていると、時に経験することがあります。結核治療を開始した矢先にDumonステントの挿入を余儀なくされたベテラン喘息の症例もありました(喘息は正しい診断ではなかったのかもしれません)。

結核で咳嗽を有する症例は、きわめて結核菌の排出が多いです。とりわけ、空洞を有する肺結核や気管支結核では、10の累乗オーダーのレベルで通常肺結核よりも菌量が多く、もっとも集団感染のリスクが高い病態です。

さて、結核の咳嗽は、若年・2つ以上の空洞性病変がある・気管支結核があることが、LCQスコアの低下(咳嗽によるQOL悪化)と関連していることが明らかになっています1)

また、夜間の咳よりも日中に咳嗽している結核は感染リスクが高いとされています2)。「よく調べたなぁ」と感じた研究もあって、結核性咳嗽の頻度が最も高かったのは午後1時から午後2時までで、最も低いのは午前1時から午前2時までだったいう報告があります(それぞれ2.4vs 1.1咳エピソード/時間、3)。この図は、ほうっておいても勝手に咳がよくなっていくというわけではなく、あくまで結核治療が開始されてからの良好な経過だと思ってください。

寝ている時間よりも起きている時間のほうが咳嗽が多いのは慢性咳嗽の常ではありますが、そのほかに結核性咳嗽の研究がないため、この研究が参考になります。

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. 結核における咳嗽エピソード(灰色は夜間)3)(文献より引用)

結核性咳嗽については、結核菌の感染そのものが物理的に咳受容体を刺激して咳が出るのか、結核菌特有の物質が咳反射を惹起するのかはよく分かっていませんでした。しかし、結核菌の細胞壁を構成する脂質のうち、SL-1という糖脂質のみがヒトおよびマウスの侵害受容ニューロンを活性化することが示され、SL-1はTRPV1受容体が発現したマウスのカプサイシン応答性ニューロンを活性化することが分かっています4)

結核はプライマリ・ケアでは喀痰検査が提出するハードルが高いため、診断がつきにくい疾患です。胸部X線写真で早期の結核病変を同定することは難しく、「咳嗽の原因は何か器質的なものかもしれない」と思いとどまり、撮影した胸部CTで結核が発見されることもあります。


(参考文献)
1) Suzuki T, et al. Improved cough- and sputum-related quality of life after initiation of treatment in pulmonary tuberculosis. Respir Investig. 2019 May;57(3):252-259.
2) Turner RD, et al. Daily cough frequency in tuberculosis and association with household infection. Int J Tuberc Lung Dis. 2018 Aug 1;22(8):863-870.
3) Proaño A, et al. Dynamics of Cough Frequency in Adults Undergoing Treatment for Pulmonary Tuberculosis. Clin Infect Dis. 2017 May 1;64(9):1174-1181.
4) Ruhl CR, et al. Mycobacterium tuberculosis Sulfolipid-1 Activates Nociceptive Neurons and Induces Cough. Cell. 2020 Apr 16;181(2):293-305.e11.





by otowelt | 2022-04-15 00:41 | レクチャー

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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