ピラジナミドの作用機序

意外とインターネット上に掲載されていないので、簡単にまとめておきたいと思います。抗酸菌を診療している医師にとっては、釈迦に説法ですが・・・。

ピラジナミドは1954年に開発された抗結核薬であり、リファンピシンやイソニアジドと組み合わせて使用した場合、治療期間を9か月から6か月に短縮するという役割があります(最近の学会の指針では、イソニアジドが使えない場合においてもレジメンによっては6か月治療が容認されました)。

ピラジナミドは、結核菌が持つピラジナミダーゼによってピラジン酸に変化します(図1)。コーヒーなどの香りづけにも用いられているメチルピラジン類が代謝された場合も、体内で発生する物質です。

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図1. ピラジナミドとピラジン酸

ピラジナミダーゼは、pH6以下の酸性環境下で機能することから、結核菌が存在する肺の病変部で強い抗結核作用が発揮されることが分かっています。酸性環境下では結核菌のピラジン酸の排出効率が悪化し、ピラジン酸が蓄積することによって細胞傷害が起こります(図21)

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図2. ピラジナミドの作用機序(筆者作成)

ピラジナミダーゼはpncA遺伝子によってコードされています。この遺伝子の変異と、ピラジナミド耐性の間には明確な相関が確認されています2)panAの変異があると、ピラジナミダーゼの活性が消失し、BACTEC法(pH6.0)がピラジナミド耐性となるのです(ほとんどがMIC900μg/mL以上の高度耐性)3)

ピラジナミダーゼ以外にも結核菌のリボソームにおける転写調節タンパクをコードするrpsAの変異やアスパラギン酸脱炭酸酵素をコードするpanDの変異がピラジナミド耐性と関連していることから、ピラジナミドの作用機序や耐性機序はやや複合的なものと考えられています4),5)

なお、ピラジナミドの代謝産物は、尿酸排泄を担うURAT1トランスポーターの交換基質となり、尿酸の再吸収を促進させるため、ほぼ必発で血清尿酸値が上昇します


(参考文献)
1) Zhang Y, et al. The curious characteristics of pyrazinamide: a review. Int J Tuberc Lung Dis. 2003 Jan;7(1):6-21.
2) Scorpio A, et al. Mutations in pncA, a gene encoding pyrazinamidase/nicotinamidase, cause resistance to the antituberculous drug pyrazinamide in tubercle bacillus. Nat Med. 1996 Jun;2(6):662-7.
3) Scorpio A, et al. Characterization of pncA mutations in pyrazinamide-resistant Mycobacterium tuberculosis. Antimicrob Agents Chemother. 1997 Mar;41(3):540-3.
4) Shi W, et al. Pyrazinamide inhibits trans-translation in Mycobacterium tuberculosis. Science. 2011 Sep 16;333(6049):1630-2.
5)Zang S, et al. Mutations in panD encoding aspartate decarboxylase are associated with pyrazinamide resistance in Mycobacterium tuberculosis. Emerg Microbes Infect . 2013 Jun;2(6):e34.




by otowelt | 2022-04-04 00:20 | レクチャー

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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