肺MAC症に対するアリケイスの処方について(2022年6月改訂版)
2022年 06月 02日
※この記事はインスメッド合同会社に協力いただき記載しております。
■アリケイスについて
マクロライド(クラリスロマイシンorアジスロマイシン)+エタンブトール+リファンピシンなどの標準治療を継続しているものの、喀痰抗酸菌検査の培養陽性が6か月以上継続している難治性肺MAC症に対して、現在「アリケイス吸入液590mg」が用いられています。メールで肺MAC症患者さんや医師からの問い合わせがコンスタントにありますので、2021年8月の記事を改訂させていただきます。 難治性肺MAC症と診断されて当院(近畿中央呼吸器センター)の受診を希望される場合、原則紹介状が必要になりますので、主治医から地域連携室へお問い合わせいただくようお願い申し上げます。
上述したように、初期治療でいきなりアリケイスを用いることはできません。また、MAC以外の非結核性抗酸菌症(特にM. abscessus)に対して有効性が示されているものの、現状保険適応がないので処方できません。肺MAC症と合併しておればこの限りではありません。
12か月程度治療を継続することになりますが、菌が陰性化しなければ継続すべきか再検討する必要があります。今のところ、維持療法については20ヶ月程度まではデータがあります。確実に治る夢の薬剤というわけではなく、既存の治療薬の効果が不十分であるため、「では次の一手に使いましょう」という位置づけであることを理解する必要があります。有効性は約3割程度と見積もって治療に臨む必要があります。
■注意点1:専用機器
アリケイスを吸入するために、専用ネブライザーシステム「ラミラ」とそのハンドセット、メンテナンス用品として蒸気式消毒器:ET-SS011、超音波洗浄機:JP-900Sが必要になります。普段私たちが喘息・COPD増悪患者さんに対して病棟や外来で使用しているネブライザーシステムで効果的に吸入できるかデータがありませんので、必ずラミラを使う必要があります。ハンドセットは毎日分解洗浄・消毒が必要で、通常の洗浄に加えて週に1度超音波洗浄器での洗浄も必要になります。

ハンドセットは月1回交換が必要です。連休などで受診ができない場合もありますが、約40日程度まで問題ないというデータもあり、このあたりは柔軟に対応可能です。ハンドセットの交換は薬局ではなく、保険償還の観点から処方医のところで行う必要があります。使い終わったハンドセットは使い捨てなので、廃棄していただきます。
蒸気式消毒器、超音波洗浄機はアリケイスの販売元ではなく、提携会社(アーストレック社)から合計約1万円で購入する必要があります(導入が決まればハガキ・電話で発注)。この1万円は健康保険が適用されず、実費負担となります。1年の医療費が10万円を超える患者さんがほとんどだと思いますので、確定申告時に医療費として申告してください。少し所得税・住民税が安くなります。
当院の場合、後述する吸入指導・洗浄指導の入院時に、あらかじめ入手した蒸気式消毒器、超音波洗浄機を自宅から持ってくる必要があります。ラミラとハンドセットは病院が納入して、入院時に手渡しております。
入院は数日~1週間程度となり、この間にメンテナンス手技、吸入手技を学んでいただく必要があります。
■注意点2:薬価
1日あたり4万2408.40円の薬価になるので、当然ながら高額療養費の適応になります。この1剤導入で一気に高額療養費適応となることから、二の足を踏まれる患者さんは多いかと思います。いずれにしても、患者さん自身の高額療養費上限の自己負担額ラインを把握する必要があります。アリケイスの導入が決まれば、限度額適用認定証を事前に取得するようおすすめします。
被扶養者でなければ、特に高齢者の場合、高額療養費適用といってもそこまで高い値段にならないこともあります。しっかりと説明すれば意外と自己負担が軽いことから希望される患者さんは多いと考えられます。70歳以上の年金生活レベルの場合、初月はメンテナンス用品との合算で約7万円になりますが、外来に移行してからは翌月以降月1万8,000円(年上限14.4万円)におさまるケースも多いです。
2022年6月1日から長期処方が可能になりましたので、多数回該当で4.4万円支払っている人は、長期処方の場合月1万円台にすることが制度上可能ですが、ハンドセット交換の受診のために月1回来院する必要があり、このときに処方がないと意図的な長期処方と査定されかねないかもしれません。C121在宅抗菌薬吸入療法用指導管理料とC175在宅抗菌薬吸入療法用ネブライザ加算は月1回算定できますが(C121:初月800+500点、2か月目以降:800点、C175:初月7480点、2か月目以降:1800点)、3ヶ月受診となると1か月2600点が丸々2か月抜けることになります。
結局のところ、病院側は長期処方を行うメリットとデメリットを理解しておかないといけません。
ちなみに2022年4月から、DPC算定病院で入院患者さんにアリケイスを用いる場合、出来高算定ではなく包括算定となりました。他方、ラミラネブライザシステムは、技術料(診療行為の対価)にて評価され、DPCには含まれていません。そのため、ラミラは医療施設のみでの取扱いになっています。
■注意点3:吸入指導・洗浄指導
外来で簡単にアリケイスの初回導入ができるかと問われると、現状はハードルが高いと思われます(実施可能な施設もあるようです)。最終的には外来になるので物理的には可能ですが、吸入や洗浄などの学習期間を含め、初回導入は入院で行うことが望ましいかもしれません。そのため、病院の薬剤師にも協力してもらう必要があります。
■注意点4:薬局
薬局にできるだけ在庫を置かないような工夫が必要です(その薬局で何人も使用するような薬剤ではありません)。1箱7瓶なので、7の倍数で処方していきます。ハンドセット交換の受診のために月1回来院する必要があることから、28瓶あるいは35瓶の処方が増えるかもしれません。
インスメッド社のアリケアサポートプログラム(URL:https://arikayce.jp/aricaresupport/)と薬局の指導が連動することから、インスメッド社が薬局とコンタクトをとる流れになります。そのため、インスメッド社や薬局への事前連絡なしにアリケイスの処方箋を持って来るという事態は避けたいところです。
個々の患者さんの使用適否については主治医にしか判断できませんので明確な返答をしかねますが、実際の導入に際して質問のある医療機関や薬局があれば、いつでもメールください(krawelts@yahoo.co.jp)。
by otowelt
| 2022-06-02 00:26
| 抗酸菌感染症