気管支拡張症そのものは肺癌のリスク因子か?

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喫煙歴の調整ができていなかったことから、ブラックボックスだった気管支拡張症単独のリスクについて考察を加えた論文です。モデルは3つ提示されており、3つ目は競合リスク回帰モデルです。競合イベント発生確率を推定する場合に競合リスクを加味しなければ、因果推論自体が誤りになるというバイアスを孕みます。結構大事な考え方です。競合リスク回帰モデルはFine&Grayがよく知られていますが、回帰係数の解釈が40歳のオジサンにはちょっとイメージしにくくて、割合やオッズ比の回帰分析のほうが直感的に理解しやすいと思っています。最近、頭がどんどん老化していく・・・。




  • 概要
■これまでの研究では喫煙歴の交絡が加味されておらず、気管支拡張症が肺癌リスクを増加させるかどうかは依然として不明である。

■2009年の国民健康診断に参加した385万8422人を対象とした集団ベースコホート研究である。気管支拡張症患者(6万5305人)と気管支拡張症でない患者(379万3117人)における肺癌の発生率を評価した。コホートの追跡は、肺癌診断日、死亡日、2018年12月までのいずれかとした。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、気管支拡張症を有する参加者と気管支拡張症を有しない参加者の肺癌の相対リスクを評価した。

■気管支拡張症を有する参加者の肺癌発生率は、気管支拡張症を有しない参加者に比べて有意に高く(1000人年あたり2.099人 vs 0.742人、P<0.001)、交絡因子で調整した死亡の競合リスクモデルに基づく調整ハザード比は1.22(95%信頼区間1.14-1.30)だった。喫煙の有無にかかわらず、肺癌リスクは、気管支拡張症のない参加者よりも気管支拡張症のある参加者で有意に高かった(非喫煙者の補正ハザード比1.28, 95%信頼区間1.17-1.41; 喫煙経験者の補正ハザード比1.26, 95%信頼区間1.10-1.44 )。

■COPDを合併している被験者の集団では、気管支拡張症そのものは肺癌リスクを増加させなかったが、非COPDの集団では肺癌リスクを有意に増加させた(補正ハザード比1.19, 95%信頼区間1.09-1.31)。






by otowelt | 2022-05-14 00:16 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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