結核患者の排菌の9割以上は、咳ではなく呼吸による

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最新号の「呼吸器ジャーナル」で御手洗先生が書いておられた抗酸菌検査のコラムにあった論文がこれですね。

「咳が多い・空洞がある、は排菌量が多い」という話はその通りだと思っていますが、1室24時間を結核患者さんがいるという想定でモデル化すると、エアロゾル化結核菌の合計の90%が通常呼気だけで構成されているという論文です。結核菌量だけでみると、呼吸数の数の多さに引っ張られるので、当然と言えば当然です。

しかし、改めてデータを示してもらえると、非常に溜飲が下がりますね。

TSP量と結核菌数の間に相関関係はありませんでしたが、ばらつきが大きいので、このパラメータで結核の伝播予防を議論するのは実は難しいのではないかと思いました。

Discussionがものすごく長くて充実していました。自然咳嗽が交絡因子になるのは言うまでもありません。



Dinkele R, et al. Aerosolization of Mycobacterium tuberculosis by Tidal Breathing. Am J Respir Crit Care Med . 2022 May 18. doi: 10.1164/rccm.202110-2378OC.

  • 概要
■結核の感染を防ぐためには、原因菌である結核菌がいつ・どのようにエアロゾル化されるかをより深く理解する必要がある。

■一般に咳が結核菌のエアロゾルの主要な放出源であると考えられている(これが乾燥して飛沫核となり空気感染する)。しかし最近、咳によらない結核菌の放出が確認されたことから、別のメカニズムが寄与していることが示唆されている。

■3パターンの呼吸法における結核患者の結核菌と全粒子状物質(TSP)のエアロゾル化について比較する。通常呼吸(TiBr)、努力性肺活量(FVC)、咳の3つの呼吸動作における結核患者の結核菌とTSPエアロゾル化を比較した。

■南アフリカ・ケープタウンにおいて、治療開始前のGeneXpert陽性結核患者38人から、バイオエアロゾルサンプリングをおこない蛍光顕微鏡による結核菌定量をライブセル解析し、CO2濃度とTSPリアルタイム測定をこころみた。

■バイオエアロゾルは200 L/分でサイクロンコレクター内に捕捉され、100 L/分の呼気はパーティクルサイザーに流された。FVCと咳のサンプリングの間、各参加者は15秒ごとに楕円形測定コーンに15回の操作を行った。これらのサンプルは、各セット間の休息時間を長くして、5回×3セットで実施した。バイオエアロゾルは、最初の5回と最後の5回の操作で、300 L/分でサイクロンコレクター内に捕捉された。中盤の5回の操作では、100 L/分の呼気がパーティクルサイザーに流された。各サンプリング後に新しいサイクロンコレクターを取り付け、濃縮および可視化パイプラインを使用して結核菌の測定をおこなった。各参加者は、同じ順序で3回の呼吸動作をおこなった。ランダム効果により参加者間のばらつきに対応しつつ、操作間の平均差を決定できるよう、様々な線形混合モデルが適用された。

■5つのサイズカテゴリーで層別化した粒子割合はどの呼吸動作においてもほぼ同じで、ほとんどの粒子は0.5~5μmの間に収まっていた。TiBrサンプリングにおいて、33%に自然咳嗽が観察された。

■5分間のサンプリング中に3動作間で結核菌が産生されるIRRを負の二項回帰を用いて推定した。FVC (IRR = 0.53, p = 0.0971) と咳 (IRR = 0.51, p = 0.0662) の両方で、TiBrと比較して結核菌生成率が低い傾向が見られたが、どちらも統計的に有意ではなかった。咳動作のサンプルでは、総粒子数がTiBrまたはFVCのいずれよりも4.8倍多かったが、陽性サンプルの割合は3動作で同等で、TiBr、FVC、咳でそれぞれ66%、70%、65%のサンプルが結核菌陽性であった。さらに、TiBrとFVC、TiBrと咳嗽の間で結核菌を検出するオッズ比に有意差は検出されなかった。

■TSP量と結核菌数の間に相関関係はなかったが、総結核菌数は個人間のばらつきがサンプリング操作間のそれよりも大きかった。

■24時間の呼気および咳の頻度を用いてモデル化した。参加者のTiBrは3.9秒に1回の割合で発生しており、24時間で約22,047回の呼吸があったことが示唆された。自発的な咳の頻度は直接測定していないため、既存のデータから推定したところ、咳の頻度の中央値は466回/日(IQR:234-551回)だった。そして、1日の最大呼吸数を一定(22,047回)とし、1回咳をするごとに呼吸数が1回減少すると仮定したモデルを想定し、TiBrと咳によって産生された結核菌の平均数を計算し、相対的な比率を求めた。これにより、咳の回数が増えた場合の平均的な人の1日あたりの相対的な寄与率が推定された。この推定によると、咳は放出された結核菌の総数の3〜7%に寄与し、残りはTiBrだった。すなわち、症状のある結核患者の1日のエアロゾル化結核菌の90%以上にTiBrが寄与する可能性が示された。

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. 結核菌総量に占める呼吸と咳の割合(文献より引用)





by otowelt | 2022-05-22 00:04 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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