南アフリカ共和国の結核疫学
2022年 05月 26日
南アフリカ共和国から、結核の疫学に関する重要な論文が発表されました。
結核患者の半数以上は自覚症状がなく胸部X線検査で異常があったので、何よりも胸部X線画像が大事なのだという結論になっています。にしても、男性は10万人あたり1000人という多さ。
罹患率ではなく有病率の記載ですが、実態調査による有病率は結核のまん延を表す重要な指標とされつつも、日本では1973年以降得られていないそうです。サーベイランス上の有病率は疫学指標ではなく、対策上必要な資源を計算する上で重要とされています。
Moyo S, et al. Prevalence of bacteriologically confirmed pulmonary tuberculosis in South Africa, 2017-19: a multistage, cluster-based, cross-sectional survey. Lancet Infect Dis . 2022 May 17;S1473-3099(22)00149-9.
- 概要
■世界で最も結核の負担が大きい国の一つである南アフリカ共和国では、依然として臨床上および公衆衛生上の重要な問題である。我々は、南アフリカ共和国の15歳以上の人々の細菌学的に確認された肺結核の罹患率を推定した。
■この多段階クラスターに基づく横断調査は、110クラスター(クラスター規模500人)の対象住民(年齢15歳以上、過去2週間に家で10泊以上寝た人)を対象としたものである。参加者は、対面式の症状アンケート(咳、体重減少、発熱、寝汗)およびデジタル胸部X線スクリーニングに回答した。スクリーニングは、参加者に結核を示唆する症状が少なくとも1つあるか、胸部X線写真の異常があるか、またはそれらの組み合わせが確認された場合に陽性と記録された。
■スクリーニング陽性の参加者の喀痰サンプルは、Xpert MTB/RIF Ultra(第1サンプル)、MGIT培養(第2サンプル)により検査され、オプションでHIV検査も行われた。結核菌培養が陽性の参加者は、細菌学的に確認された肺結核と定義された。培養陰性の場合、活動性結核を示唆する胸部X線写真異常があり、現在または過去の結核既往がないXpert MTB/RIF Ultra陽性者を、細菌学的に確認された肺結核と定義した。
■2017年8月15日から2019年7月28日の間に、110クラスターから68771人が集計され、53250人が調査への参加資格を有し、そのうち35191人(66.1%)が参加した。35191人のうち9066人(25.8%)がスクリーニング陽性、234人(0.7%)が細菌学的に確認された肺結核と診断された。
■全体として、細菌学的に確認された肺結核の推定有病率は、人口10万人あたり852人(95%信頼区間679~1026)だった。有病率は、35~44歳の人々(人口10 万人あたり1107人[95%信頼区間703~1511])と 65歳以上の人々(同1104人[95%信頼区間680~1528])が最も高かった。
■推定有病率は、女性よりも男性で約1.6倍高かった(人口10万人あたり1094人[95%信頼区間835-1352] vs 人口10万人あたり675人[95%信頼区間494-855])。結核にかかった234人のうち135人(57.7%)が胸部X線検査のみで陽性、16人(6.8%)が症状のみで陽性、82人(35.9%)が両方で陽性と判定された。191人のうち55人(28.8%)がHIV陽性だった。
by otowelt
| 2022-05-26 00:36
| 抗酸菌感染症