胸腔内感染症に対するt-PA+DNase併用療法の出血性合併症

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日本では、膿胸に対してt-PAとDNaseを使うことはできませんので、ウロキナーゼを使っていました。膿胸に対して早期に掻爬するほうが明確にアウトカムを改善することもあって、近年は出番は減っているように思います。いずれにしても現在持田製薬をはじめ、出荷調整がかかっており、特に保険適用外の呼吸器診療ではなかなか使用できない状況になっています。

■ウロキナーゼ製剤の流通について(持田製薬)
①「本剤の発売当初は、国内で尿の収集から原薬製造を行っておりましたが、国内での尿の収集が困難となったため数回製造所を変更し、現在は、中国の尿を用いて中国製造業者で原薬中間体を製造し、ドイツの製造業者で最終原薬を製造しております。 ウロキナーゼ製剤の尿の調達先は全て中国であり、昨今、中国での近代化策に加えて新型コロナウイルスによる採尿機会の激減や、海外での需要拡大によって、調達が困難な状態となっています。 このような状況の中、直近の原薬が連続して規格不適合となり、品質規格に適合する原薬を入手できず、安定的な製品供給が困難な見通しとなりました。原薬製造業者と調査を進めておりますが、現時点で原因の特定に至っておらず、本剤の弊社からの供給が3月上旬をもって滞る状況となりました。」
②「本品の供給再開に向けて、ドイツの原薬製造業者と鋭意調査を進め、弊社担当者が製造所を訪問して製造条件・手順等を確認し、改善策を施した上で原薬の再製造を試みましたが、残念ながら未だ規格に適合する原薬を確保できず、本品の供給再開の目途が立っておりません。現在、直近で規格不適合となったロットの原因の調査結果に基づき、更なる改善策を施した上で再製造することを計画しており、この原薬が使用可の場合、本年9月以降に供給できる見込みですが、すべてのご要望にお応えできる十分な数量は供給できません。」

t-PAとDNaseの併用はなんと10年以上前のNEJMで報告された治療法なのですが(図1)(N Engl J Med 2011; 365: 518–26.)、いまだに国内で実用化されていないのが現状です。

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(N Engl J Med 2011; 365: 518–26.より引用)

ウロキナーゼとt-PA+DNaseの比較は、3年前にERJ openで報告があります。ウロキナーゼとt-PA/DNaseは、ともに胸腔内の陰影やCRPなどのパラメーターを改善しましたが、群間差はありませんでした(図2)(ERJ Open Res. 2019 Sep 10;5(3). pii: 00084-2019.)。なお、この研究ではウロキナーゼのほうが出血は少ないとされています。

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(ERJ Open Res. 2019 Sep 10;5(3). pii: 00084-2019.より引用)

いずれにしても、抗凝固療法を続けながらのIETはそれなりに出血性合併症のリスクがあると思って治療に臨む必要があります。それを示した多施設共同後ろ向き観察研究がCHESTから報告されました。



Akulian J, et al. Bleeding risk with combination intrapleural fibrinolytic and enzyme therapy in pleural infection - an international, multicenter, retrospective cohort study. Chest. 2022 Jun 15;S0012-3692(22)01089-3.


■胸腔内感染症に対する治療法として、胸腔内線維素溶解療法と酵素療法の併用(IET)が確立している。しかし、その有効性は証明されているものの、合併症について検討した研究はほとんどない。

■本研究は、胸腔内感染症におけるIETに伴う出血性合併症のリスクを調べた、24施設の多施設共同後ろ向き観察研究である。2012年1月から2019年5月の間に、胸腔内感染症に対して少なくとも1回のIET併用投与を受けた患者1851人のデータが収集された。主要アウトカムは、胸腔内出血の発生率である。

■胸腔内出血の発生率は76/1833=4.1%(95%信頼区間3.0%~5.0% )であった。半量投与(tPA 5mg)により,このリスクは有意に変化しなかった(6/172=3.5%;p=0.68)。IETと同時に治療的抗凝固療法が継続された場合、投与前に一時的に抗凝固療法を中止した場合と引かうして出血率は増加した(19/197=9.6% vs 3/118=2.6%、p=0.017)。全身性抗凝固療法と同様に、RAPIDスコアの上昇、血清BUN上昇、血小板低下(10万以下)は、出血リスクの有意な上昇と関連していた。しかし、独立予測因子は、RAPIDスコアと全身性抗凝固療法のみであった。







by otowelt | 2022-07-19 00:02 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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