肺MAC症に対する吸入アミカシンリポソーム製剤(ALIS)のNNT/NNH
2022年 07月 15日
「たかだか30%程度の培養陰性化率」と揶揄されることもありますが、明確にNNTが低いので難治性肺MAC症には積極的に導入すべきと思い、結構な症例を処方しています。当院ではそろそろアリケイスの導入が20例に到達しそうです。
70歳以上だと高額療養費制度該当でありながらも医療費負担はかなり減りますので、具体的な支払いプランを提示しながら外来で処方を決定しています。
NNT・NNHを改めて計算した報告がオープンジャーナルに掲載されていました。NNHは曝露期間で調整しています。なるほど、確かにそうか。
耳毒性については、報告された事象の半数は、ALISを継続してもデータカットオフまでに消失していたことから、不可逆的な内耳の有毛細胞の障害が大半を占めるわけではないと考えています。実際に導入して、嗄声はよく経験しますが、今のところ耳毒性で困った事例はありません。
Marras T, et al. Amikacin liposome inhalation suspension clinical benefit–risk assessment for refractory Mycobacterium avium complex lung disease. ERJ Open Research 2022 8: 00623-2021; DOI: 10.1183/23120541.00623-2021
- 概要
■Mycobacterium avium complex(MAC)は、肺非結核性抗酸菌症の主原因であり、進行性の肺損傷と死亡率の増加を伴う。肺MAC症の治療選択肢は限られている。最大40%の患者が、多剤併用療法が遷延し、再発または再感染を起こし、治療失敗を経験する。現在のガイドラインでは、ガイドラインベースの治療(GBT)を6か月以上おこなっても排菌陽性が続く場合にGBTに吸入アミカシンリポソーム製剤(ALIS)を追加することが推奨されている。
■われわれは、肺MAC症と診断され、GBTをおこなっても排菌が持続的に陽性であった場合のALIS上乗せ効果を評価した臨床試験データを抽出した。
■GBTに対するALISのNNTはCONVERT試験(ALIS+GBT [n=224] vs GBT単独[n=112])を用いて評価された。NNHは3試験のプールデータ(ALIS+GBT [n=404] vs GBT±プラセボ [n=157])により評価された。報告されたほとんどの NNH 値の 95%信頼区間の上界は無限大となった。
■治療開始6か月目までの培養陰性化に関して、NNTは5(95%信頼区間3.6-8.2)で、ALIS+GBT治療では29.0%の患者が、GBT単独治療では8.9%の患者が培養陰性化を達成した。12か月時点で持続的な培養陰性化に関して、NNTは6(95%信頼区間4.6-10.3)であり、ALIS+GBTではGBT単独に比べ、より高い割合で持続的な培養陰性化が観察された(18.3% vs 2.7%)。治療終了後から3か月後の持続的な培養陰性化に関して、NNTは6(95%信頼区間4.8-8.9)であり、GBT単独に対してALIS+GBTでより高い割合で持続的な培養陰性化が観察された(16.1% vs 0%)。
■調整前NNHは、耳毒性が13、腎毒性が60、神経筋症状が43、アレルギー性肺炎が51だった。曝露調整後NNHは、試験間の治療期間の違い(ALIS+GBT:327 patient-years、GBT±プラセボは87patient-years)を考慮して計算された。調整後NNHは、耳毒性28、腎毒性166、神経筋症状40、アレルギー性肺炎60だった。
by otowelt
| 2022-07-15 00:24
| 抗酸菌感染症