偶発的に診断されたIPFの生存期間


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個々のIPF患者さんの実際の生存範囲は非常に広いもので、最大で20~25%の患者が10年を超えて生存しているとされていることから(Chest. 2011;140(1):221.)、生存期間に関する病状説明に関しては慎重になるべきと考えています。

ドクターズディレイが生じるのは当然で、多くのIPFの疫学研究では専門のILDセンターなどのコホートを用いているため生存期間の推定は短めになります。そのため、発症前にサブクリニカルな期間がそれなりにあるわけです(Am J Respir Crit Care Med. 2011;184(7):842.)。

紹介するのは、近畿大学からの報告です。IPF全体を俯瞰的にながめたとき、どのくらいの患者さんが偶発的に発見されたのか、またその発見根拠となる手がかりはあるのか、など啓蒙的な報告になっています。これまではっきりと分かっていなかったサブクリニカルな部分の説明につながると考えられます。

強力な独立予測因子としては性別、年齢、肺機能(FVC、DLCO)、いわゆるGAPが知られていますが、今回の報告ではBMIが示されています。BMIについては、PF-ILDにおいてバリデーションコホートまで用いて死亡ハザード比が上昇することを示した論文が今年発表されており、有力な予後予測因子になる可能性があります(Chest. 2022;161(5):1320.)。



Yamazaki R, et al. Outcome of patients who were incidentally diagnosed with idiopathic pulmonary fibrosis: How early in the disease should we identify patients? Respir Med. 2022 Jul 16;201:106933.

  • 概要
■特発性肺線維症(IPF)は、呼吸器症状がほとんどない、あるいは全くない患者でも偶然に診断されうる。そのような患者の臨床的特徴は不明である。そこで、IPFと偶然診断された患者の臨床経過と予後因子を明らかにした。

■新規にIPFと診断された連続した173人のIPF患者の診療録を後ろ向きにレビューし、その診断方法と転帰を明らかにした。観察期間が6か月未満のIPF症例は除外された。

■新規にIPFと診断された患者107名のうち、35名(32.7%)が偶然にIPFと診断され、そのうち18名は毎年の健康診断で、17名は他の医学的問題で評価を受けていた。診断からの生存期間中央値は、偶発的に診断された35名の4.9年、偶発的に診断された群ではなかった72名の生存期間中央値3.9年と統計学的に有意差はなかった。BMIは、偶発的に診断されたIPF患者における生存の独立予測因子であった(ハザード比0.78、95%信頼区間0.65-0.93、p=0.006)。






by otowelt | 2022-08-11 00:26 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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