新型コロナでは、救急科も感染症科も呼吸器内科も、色々な診療科が活躍しましたが、最後の砦としておおいに集中治療に助けられました。特に大阪の第4波では多くの重症病床に助けていただきました。
新型コロナの罹患後症状(後遺症)ともオーバーラップする部分はありますが、近年注目されている概念がPICS(post intensive care syndrome)です。本書はこれにスポットライトをあてた、たくさんの物語が記された本です。翻訳は、おなじみ田中竜馬先生です。

発売日:2023年4月23日
単行本 : 387ページ
価格 : 3,200円 (税別)
出版社 : 金芳堂
著者: E. Wesley Ely先生(翻訳:田中竜馬先生)
PICSを予防するための取り組みとしてABCDEバンドルが有名です(Chest. 2010;138:1224-33.)。本書の著者(Ely先生)らのグループが、積極的に情報発信をしています。適切な鎮静・鎮痛の管理と、せん妄対策、そして早期のリハビリを組み合わせることで覚えやすくしたバンドルであることは有名です。
私見ですが、PICSは集中治療という世界に時間の概念を入れたもので、重症患者さんを刹那的ではなく聴器的に診る重要性が示された症候群です。一意専心で助けることだけを目的にするのではなく、より良好なケアでもって罹患後症状を予防しつつ助けることを目指す。
アカデミアの世界で有名な先生の著書なので、エビデンスベースドでドライな部分もあるのかなと色眼鏡を持っていましたが、失礼、真逆でした。とてもハートフルな逸話がたくさん散りばめられていました。ICU日記についても何回か出てきます。患者さんの日々のケア・症状の変化を記載する交換日記のようなもので全国的にも普及しつつあります。
実際の症例をまじえつつ、学術的な記載も多いので、1つ1つの濃厚な物語を通じて学ぶところが多いのではないでしょうか。