結核におけるparadoxical responseの胸水の特徴

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毎度おなじみ、複十字病院の下田先生の論文です。このままのペースだと、5年後には「毎日どこかに下田論文が掲載される時代」がやってくるのでは・・・。

さて、今日紹介するのはparadoxical responseの胸水の論文。「初期悪化」などとも呼ばれてきた現象ですが、結核治療を開始してしばらくして訪れるIRISのような病態です。サムスンメディカルセンターのデータでは全体の16%に起こる現象とされており(Int J Tuberc Lung Dis . 2012 Jun;16(6):846-51.)、ほとんどが胸水増加です。

PRは、抗結核薬やARTを開始した後、結核菌に対して効果があったにもかかわらず、病変が悪化したり新規病変が出現したりすることを指します。生菌死菌を問わず結核菌の菌体成分に対して免疫反応が過剰に反応し、臨床症状が悪化するとされています。IRISは、ARTによって本来の免疫応答が見えるようになる(unmasking)ことの総称です。結核がunmaskingされることもあります(TB-IRIS)。ぶっちゃけ、実臨床ではそこまで区別されません。

PRが起こる人は、アルブミン低値・ヘモグロビン低値・リンパ球低値のことが多く(Int J Tuberc Lung Dis 2007;11:1290–5、アレルギー 68 (6), 691-695, 2019)、日本では寝たきり高齢者に多いです。今回の報告では空洞の存在も重要と記載されていました。

結論としてPR胸水は、いわゆる通常の結核性胸膜炎とほとんど同じ性状ですが、LDHと糖でやや違いがあります。PR例では胸水LDHが高くなるのかなと思っていたのですが、意外と低いんですね。いやあ、ほんとPRって何なんでしょうね(笑)。



Shimoda M, et al. Characteristics of pleural effusion due to paradoxical response in patients with pulmonary tuberculosis. J Infect Chemother. 2023 May 25;S1341-321X(23)00133-2.

■肺結核患者では抗結核薬治療中に胸水が悪化することがあり、paradoxical response(PR)と呼ばれ、一部の患者には追加治療が必要となる。しかし、PRは他の鑑別診断と混同される可能性があり、追加治療をすすめるための予測因子は不明である。この研究では、PRの診断と介入に有用な情報を明らかにすることを目的とした。

■複十字病院において結核と診断されている既存の胸水(pre-existing pleural effusion)患者184例とPR胸水患者26例を含む、210例を後ろ向きに検討した(全員HIV陰性)。さらに、PR患者を介入群(n=9)と介入なし群(n=17)に分けて比較した。

■結核性胸膜炎の定義:胸水から採取した結核菌の検体、あるいは他の肉芽腫性疾患と診断されない肉芽腫性胸膜炎病理所見、あるいは胸水ADA≧40 IU/Lの患者において抗結核治療開始後に胸水が消失している。

■PRの定義:疾患再発または他疾患のエビデンスがなく、適切な抗結核療法の開始後に臨床的または放射線所見が悪化することと。放射線所見の悪化とは、胸水が増加したり、新たな実質的病変が発生した場合を指す。INSHIのIRIS基準からHIV関連変数を除外して適用した。

■PR例と既存の胸水例で年齢(中央値67.5歳[IQR44.0-78.0] vs 70.0歳[47.0-84.0]、p = 0.443)や性別(男性比率61.5% vs 75.5% 、p = 0.153 )に差はなかった。

■PR群の胸水例は、既存の胸水例に比べ、胸水中LDHが低く(中央値177 IU/L vs. 383 IU/L, p < 0.001)、胸水糖が高かった(中央値122 mg/dL vs. 93 mg/dL, p < 0.001 )。その他の胸水データに有意差はなかった。介入群の患者は、結核治療開始からPR発症までの期間が、非介入群の患者よりも短かった(中央値19.0日[IQR18.0-22.0] vs 37.0日[IQR:28.0-58.0]、p = 0.012 )。






by otowelt | 2023-06-06 10:54 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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