成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2023年改訂-

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日本結核・非結核性抗酸菌症学会および日本呼吸器学会から、『成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 -2023年改訂- 』が公表されています。肺MAC症、肺M. kansasii症、肺M. abscessus species症について具体的な治療レジメンが記載されています。


■成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2023年改訂-
(URL:https://www.kekkaku.gr.jp/


直リンはマナー違反になってしまうかもしれないので、ヒヨって学会トップページにリンクを貼っておきます。なんと、会員でない方もフリーで見られますので、是非読んでください。呼吸器内科医だけでなく、プライマリ・ケア医の皆さんも必読かと。

学会員になると、こういうハイクオリティな日本語論文や見解などが無料で読めます。これを機に日本結核・非結核性抗酸菌症学会にぜひ入会を検討ください。ちなみに、認定医・指導医制度もあります。日本結核・非結核性抗酸菌症学会にぜひ入会を検討ください。2回言いました。

―ーーさて、この10年、肺NTM症全般について変わったことは何でしょうか。だらだら書いてみたいと思います。

別にインスメッド合同会社をヨイショしているわけではないですが、アリケイスの登場はやはりインパクトがあったかなと思います。R・E・CAMで有効だった患者さんももちろんたくさんいますが、難治性でアリケイスを導入した患者さんの画像所見や喀痰培養が良化するのを見ると、たいした薬が出たもんだーと感心したものです。割と役に立ったことがない金融系の資格をいくつか持っていて、高額療養費制度のシミュレーションが提示できれば、導入率が高くなります。値段が高額療養費上限に達するので、喘息のバイオより絶対に説明が簡単です。

アミカシンの点滴ができるようになったのも大きいですね。他のアミノグリコシドと違ってアミカシンのほうが副作用が多めの報告が多いんですが、筋注アミノグリコシドの処方は減っているように思います。今回の見解ではストマイが標準レジメンとして入っています。アミカシンは、TDMが煩雑な点が玉に傷ですね。血中濃度は入院の場合、月1回しか算定できませんので、持ち出しを減らすために少ない回数でトラフとピークを適正値にもっていくことが重要になります。どうでもいいですが、ストマイ-アミカシンの関係ってイトラコナゾール-ボリコナゾールの関係と何だか似ている気がします。

watchful waitingはこれまで私たちが普段の診療でやってきたことを言語化したものなので、大きくプラクティスが変わったようには思っていません。MGITって感度が高い検査なので、あまりこの陽性に振り回されないことも重要なのかもしれません。目の前の患者さんを診療して、どのくらいたくさんの菌が身体にいるのかなとイメージしながら診療にあたるようにしています。

NB型肺MAC症では週3回のレジメンが国際的にも推奨されています。日本では臨床試験の解析段階にあります。今回、肺MAC症のB法として週3回レジメンが記載されています。ただ、実臨床において個人的に懸念しているのが内服アドヒアランスの維持です。結核の場合、イソニアジドとリファンピシンが毎日ある中でエタンブトールが週3回になるので、一包化しておれば服薬アドヒアランスは問題ありません。しかし、RECAMで週3回をおこなうとなると、服薬忘れをいかに回避するかが重要になります。

数か月前に発売されたばかりのブロスミックSGM(極東製薬)のことも書いています。外注で抗酸菌が検出されたときにクリニックの依頼が結核菌になっているとそのまま自動的に不適切な感受性試験が行われるパターンは、当院の紹介状を見る限り、まだある印象です。当院は抗酸菌検査が多い施設ということもあり、ブロスミックシリーズだとマイコブロスのフェーズで時間がかかるため独自のフローを組んでいます。ブロスミックSGMとブロスミックRGMの知名度が高くなるとよいですが、1年程度はブロスミックNTMも併売されると聞いています。プライマリ・ケア医にとって選択が難しい状況が続くかもしれません。これらの違いをどうにかして非呼吸器内科医に啓発したいところですが、内科系学会以外にあまりよいプラットフォームが思いつきません。

M. abscessus species症治療の強化期間・維持期間の考え方が掲載されました。プライマリ・ケア医でこの感染症を疑うのは、塗抹陽性だが結核・NTMのPCRが陰性のときです。ブロスミックRGMのクラリスロマイシンの表現型をみて判断をするのですが、どっちに転んでもマクロライドを入れることが多いです。MSDのチエナム流通が復活したので、強化期間でチエナム・アミカシンを入れやすくなりました。ランプレンは私も何人か現在処方していますが、薬剤数が確保できないのでグレースビットを入れているのが現状です。結核と同じように、強化期間でガンガン菌量を減らして、その後しっかりと維持療法を続けることが大事です。治療選択肢が少ないので、呼吸器内科医の腕の見せ所かもしれません。

明日から2日間、結核・非結核性抗酸菌症学会に現地フル参加の予定です。私にはほぼオーラがないので、「マスクをつけたスーツ姿の倉原」を会場で視認できる人は皆無と言われています。万が一気づいた方がいらっしゃいましたら、是非声をかけてください。





by otowelt | 2023-06-09 22:50 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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