7月22日 第101回日本呼吸器学会近畿地方会:「モーニングセミナー1」「教育講演4」
2023年 07月 17日
今度は近畿地方会です。第101回日本呼吸器学会近畿地方会は、「モーニングセミナー1」と「教育講演4」のダブルヘッダーです。一般演題も気合い入れて2演題出しているので、合計4回登壇します。マスクしている倉原からはオーラが出ていないので視認困難と思われますが、会場でそれと思われる人物を見かけたら気軽に声をかけてください。
■モーニングセミナー1「急増する肺MAC症と戦う ~ALISをいつ導入するか?~」
世界的に,肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacterium:NTM)症 は急増している.最も多い菌種であるMycobacterium avium complex(MAC) に対して、マクロライド,エタンブトール,リファマイシンの 3 種類併用が標準治療レジメンとして用いられる.しかし,特に高齢者では,エタンブトール による視神経症,リファマイシンによる消化器症状などの副作用の頻度が高くなることが知られている.空洞を有する例や難治例に用いられるアミノグリコ シドの注射剤は,腎毒性・聴器毒性の観点や,外来における投与継続のハードルの高さゆえ,長期投与が実現しにくい現状がある.
こういったアンメットニーズを解決するために登場したのが,難治性肺MAC症に対するアミカシンリポソーム吸入用懸濁液(amikacin liposome inhalation suspension:ALIS)(アリケイス®吸入液,インスメッド合同会社)である.国内で上市されてから約2年が経過した.専用ネブライザを用いる必要があること,毎日の消毒が必要になること,そして高額療養費制度の上限額が適用されることから,ALIS の導入に二の足を踏むケースはまだまだ多い. 2023年3月,国際基準に準拠した遅発育菌用の薬剤感受性キット(ブロスミック®SGM,極東製薬)が発売され,現在多くの医療機関で適切な抗菌薬が選択 可能となっている.
もはやcommon disease となった肺MAC症の治療において,ALIS を含めた効果的な抗菌薬を検討する臨床的意義が高まっている.本講演では,現在の肺 MAC 症のエビデンスに加え,具体的にどのタイミングでどのように声をかけてALISを導入しているか,またどのように副作用をマネジメントしているか,約2年の経験をもとにお話しさせていただきたい。
■教育講演4「臨床におけるエビデンス取集とAIの活用」(倉原 優)
私たち臨床医が避けて通れないのが,文献検索である.自身の勉強や抄読会で必要な場合,目的の学術論文に行き当たればそれで一旦終了となるが,その先に,文献管理や医学論文執筆などの世界が広がっている.
私が医師になった頃は,二次文献としてUpToDateを使用し,最新の文献を検索する場合PubMedを使っていた.おおまかな流れとしては,現在もこれと相違ない.しかし, 近年話題になっているのが人工知能(Artificial Intelligence:AI)を用いた文献検索・文献管理・医学論文執筆サポートである.
世間では生成系AIであるChatGPTが話題であるが,これ以外に派生したAI や全く新しいコンセプトのAIも次々と登場している.1~2か月も経てば, 現存のAIが過去のものになるほど日進月歩の世界である.
AIの存在を世に知らしめた象徴的な出来事は,1997年にIBMのディープ・ ブルーが,チェスの世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏を破ったことで ある.それ以降,AIが人類の知能水準を超える転換点,すなわちシンギュラリティがいつ到来するかが喧々囂々と科学者の間で議論されている.
さて,PubMedなどの既存のツールを使いこなすスキルはできるだけ若手医師の頃に身に付けておくことが望ましいが,AIの登場はまさしくパラダイムシフトになるかもしれない.現在の機能面を俯瞰すると,あくまでサポートツー ルの位置づけにとどまっているが,働き方改革が叫ばれる現在,医師の業務に深く食い込んでくるシンギュラリティが到来する可能性がある.黎明期である現時点で,身近なAIには慣れておいたほうがよいと考えている.
しかし,機械学習の国際会議であるInternational Conference on Machine Learning(ICML)をはじめ,あらゆる学術団体はAIを用いた科学論文執筆を禁じているものの,推敲・修正などについては寛容な玉虫色の立場をとっている.perplexityやElicitといったAIは,論文作成にそのまま転用できるような表示が仕様となっていることから,生成された文章が剽窃に該当しないか注意しつつ,AIとうまく付き合っていく医師のリテラシーが問われる時代になっていくだろう.
本講演では,私自身が普段どのように文献検索しているか,また医学論文に親和性の高い“お役立ちAI”をどのように使っているか,紹介させていただきたいと思う.
by otowelt
| 2023-07-17 00:09
| 呼吸器その他