抜歯後の抗菌薬はまだまだ不適切処方が多い

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薬剤耐性は地域だけでなく、世界経済的にも影響をおよぼし、対策が講じられない場合2050年のGDPはリーマンショック並みの金融危機までGDPが低下する可能性があることが示されています(World Bank Group, Drug-resistant Infections: A Threat to Our Economic Future – Final Report. Washington, D.C., March 2017)。なので、キノロンやだいたいウンコ(DU)と呼ばれる第3世代セファロスポリンの処方など、耐性を惹起しやすい処方は控えられるべきです。

日本では、すべての抗菌薬のうち8.9%が歯科医師による処方とされています(AMR Clinical Reference Center. Japan surveillance of antimicrobial consumption)。人工弁置換術を受けているような心内膜炎リスクが高い場合、AHAは抜歯の30~60分前に抗菌薬予防投与を行うことを推奨しています(Circulation 2015;132:1435–86. )。レジメンはアモキシシリン2g単回投与が一般的です。

インパクトがある処方数にもかかわらず、処方の実態については報告が限られています。そこで立案されたのが本研究です。



Hirayama K, et al. The five-year trends in antibiotic prescription by dentists and antibiotic prophylaxis for tooth extraction: a region-wide claims study in Japan. J Infect Chemother. 2023 Jun 19;S1341-321X(23)00157-5.

  • 概要
■歯科領域における抗菌薬スチュワードシップおよび抜歯時の抗菌薬予防は、日本では関心のある分野であるが研究は限られている。

■この断面研究では、日本の地域医療保険請求データベースを利用して、抜歯時の予防的抗菌薬使用に関して、使用レジメン、処方時期、投与日数など、歯科医による抗菌薬処方傾向を調査した。また、人工心臓弁を有する患者に対する抗菌薬の予防投与についても調査した。

■歯科医師による抗菌薬処方は、2019年では、2015年のそれと比較して7%減少した。2019年の抗菌薬処方では、第3世代セファロスポリンが48.5%を占めた。アモキシシリン処方は、抗菌薬処方全体の8.4%に過ぎないが、2019年には3.9倍に増加していた。2019年において、抜歯に伴う予防的抗菌薬の17.1%にアモキシシリンが処方され、80%が3日以上処方され、85%が処置当日に処方された。しかし、人工心臓弁患者の60〜70%しか抗菌薬の予防投与を受けていなかった。

・抗菌薬耐性の病原微生物が増加しているにもかかわらず、第3世代セファロスポリンの処方割合は以前として高く、アモキシシリンの処方割合はまだまだ低い
・歯科医師は、抗菌薬予防投与を必要とする高リスクの人工心臓弁患者のリスクを認識し、まだ弁置換を行う医師は、侵襲的歯科処置の前に予防投与が必要であることを患者に伝えるべきである。

現状まだまだ第3世代セファロスポリンの処方が多いようです。医師の間だけでなく、歯科医師の間でも抗菌薬耐性に関する情報を広めていく必要があると考えています。






by otowelt | 2023-08-10 00:50 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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