放射線学的に同定された無症候性肺MAC症は治療すべきか?

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複十字病院の藤原啓司先生の研究です。藤原先生とは、下田先生の「ゲーマーは気管支鏡が上手い」のポスター発表を一緒に笑いながら見るくらいの仲です。

論文の副題「Beyond Symptoms」がよいですね。

日本の肺NTM症の診断には国際基準のような症状が入っていないので、他国から揶揄されがちなところはありますが(被害妄想か)、当該基準に対して切り込んだ重要な研究だと思います。症状があるとかないとか、治療開始のデジションメイキングには関係ないと言ってもよいかもしれません。

治療アウトカムにおいて症状やQOLは確かに重要になりつつありますが、診断においては他覚的所見(特に画像所見)のほうが重要なのでしょう。





  • 概要
■国際的な肺NTM症(NTM-PD)ガイドラインでは、診断時に症状があることが強調されているが、無症候性肺Mycobacterium avium complex症(MAC-PI)患者の臨床的特徴については、まだ十分な研究がなされていない。われわれは、無症候性MAC-PI患者の臨床的特徴と経過を明らかにした。

■2018年1月から2020年6月までに複十字病院で新たにNTM-PDの微生物学的基準および放射線学的基準を満たしたMAC-PI患者200例を連続的に後ろ向きに解析した。無症候性と症候性のMAC-PI例の臨床的特徴および経過を比較し、多変量解析により治療開始に影響する因子を評価した。

■診断時111例が症候性、89例が無症候性であった。無症候性群患者の15.7%に空洞病変がみられ、割合は症候群の28.8%より有意に低かった(P = 0.042)。

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■無症候群では、38例(42.7%)で治療が開始された。この治療開始の独立予測因子は空洞病変、抗酸菌塗抹陽性、年齢が若いことであった。

■追跡期間中に治療が必要となった22例(57.9%)のうち、13例(34.2%)は症状増悪を伴わない放射線学的な病状進行であった。治療に使用された薬剤は群間で一貫していた。培養陰性化率、微生物学的再発率、自然培養陰性化率に有意差はなかった。

■以上から、定期的な健診・X線検査は、症状がなくても臨床的に重要なMAC-PIを検出することが可能と考えられる。無症候性MAC-PI患者の臨床経過は有症状患者とほぼ同様であることを考慮すると、すべてのMAC-PI患者に対して適時・適切な管理と介入が不可欠である。






by otowelt | 2024-04-13 00:58 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優