気管支拡張症における肺NTM症のリスク

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台湾で行われた肺NTM症と気管支拡張症(BE)に関する大規模な後ろ向き観察研究です。詳細な診療履歴が入手できず、真の感染後気管支拡張症と感染による気管支拡張症の増悪を区別することが難しいと記載されています。指摘されている通りかと。

BEのメタアナリシスではだいたい10%くらいに肺NTM症を合併していますが(BMJ Open. 2022 Aug 1;12(8):e055672.)、本研究では2.9%でした。





  • 概要
■BE患者では肺NTM症の合併が知られているが、その臨床的予測因子や他の病原微生物との共感染についてはあまり研究されていない。この研究の目的は、BE患者における肺NTM症の特徴、予測因子、アウトカム、他の潜在的病原微生物との共感染を調査することである。

■2017年1月から2020年6月までに台湾の16施設で胸部CTでBEと診断された2717人の患者を対象に後ろ向き観察研究をおこなった。肺NTM症の発生率と、診断後1年以内の肺炎および入院との関連を解析した。

■肺NTM症の発生率:
・BE患者2717人中79人(2.9%)が肺NTM症と診断された。発生率は1000人年あたり29例だった。

■肺NTM症の予測因子:
・多変量解析により以下の因子がNTM肺疾患のリスク因子として同定された:4つのリスク因子のうち2つ以上を満たす場合の感度は70.0%、特異度は61.9%。
 ①喀血:調整オッズ比 1.80
 ②感染後気管支拡張症:調整オッズ比 2.36
 ③Tree-in-bud(TIB)スコア≥2:調整オッズ比 1.78
 ④修正Reiffスコア≥4:調整オッズ比 2.95
・COPDは保護的因子だった(調整オッズ比 0.51)。

※感染後気管支拡張症:気管支拡張症の診断以前に、肺炎の既往または結核の既往がある。
※TIBスコア:各肺葉(右上葉、右中葉、右下葉、左上葉、舌区、左下葉の6葉)でTIBパターンの有無を評価し、TIBパターンが存在する各肺葉に1点を与える。6葉の合計スコアを算出し、最高スコアは6点。
※修正Reiffスコア:肺葉(計6葉)の気管支拡張の程度と範囲を評価。1点: 管状の拡張、2点: 静脈瘤状の拡張、3点: 嚢胞状の拡張で、6葉の点数を合計して全体のスコアとする。最高スコアは18点。

■転帰:
・肺NTM症群は非肺NTM症と比較して、1年以内の肺炎発症率が高く (20.3% vs 9.8%, p=0.003) 、1年以内の入院率が高く(32.9% vs 15.9%, p<0.001) 、3年死亡率がやや高い傾向にあった (6.3% vs 2.8%, p=0.086)。

■潜在的病原微生物の共感染:
・緑膿菌が最も一般的な共感染菌で、肺NTM症群と非肺NTM症で有意差はなかった(10.1% vs 7.8%, p=0.40)。
Acinetobacter baumanniiの分離頻度は、肺NTM症群: 3.8%、非肺NTM症群: 0.7%だった(p= 0.03)
・大腸菌の分離頻度は、それぞれ3.8%、1.0%だった(p=0.05)。
Klebsiella pneumoniaeの分離頻度は、それぞれ6.3%、3.0%だった(p= 0.10)。





by otowelt | 2024-08-17 00:46 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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