PROMIS-I試験・PROMIS-II試験:緑膿菌を有する気管支拡張症に対する吸入コリスチン
2024年 09月 14日
■気管支拡張症は、気道のクリアランス機能障害と宿主免疫機能の低下により、慢性的な気道感染を引き起こす疾患である。気道内の細菌負荷の増加は、気道の炎症を増強させ、増悪のリスクを高める。緑膿菌は気管支拡張症患者の気道から最も頻繁に分離される病原体であり、その存在は症状の悪化、肺機能の低下、増悪頻度の上昇、入院リスクの増加、死亡率の上昇と関連している。
■吸入コリスチン(colistimethate sodium)は、ヨーロッパで気管支拡張症に最も広く使用されている吸入抗生物質である。このPROMIS-IとPROMIS-IIは、気管支拡張症および緑膿菌感染を有する成人患者において、吸入コリスチンの12か月間の安全性と有効性を評価することを目的とした。
■多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間介入試験において、緑膿菌に慢性感染した気管支拡張症成人患者を対象に、過去12か月間に経口抗菌薬による治療を要する増悪を少なくとも2回、または静脈内抗生物質による治療を要する増悪を1回以上経験した患者が登録された。患者は1:1の割合で吸入コリスチンまたはプラセボを、I-nebデバイスを介して1日2回、最大12か月間吸入するよう割り付けられた。主要評価項目は年間の増悪率とされた。
■PROMIS-I試験は12か国86施設で実施され、377人の患者が登録された(吸入コリスチン群177人、プラセボ群200人)。PROMIS-II試験は12か国89施設で実施され、287人の患者が登録された(吸入コリスチン群152人、プラセボ群135人)。
【PROMIS-I試験】
・年間増悪率:吸入コリスチン群0.58、プラセボ群0.95(率比0.61、95%信頼区間0.46-0.82、p=0.0010)
・最初の増悪までの時間:吸入コリスチン群で有意に延長(ハザード比0.590、95%信頼区間0.432-0.806、p=0.00074)
・QOL(St George's Respiratory Questionnaire総スコア):吸入コリスチン群で有意に改善
・緑膿菌:吸入コリスチン群で有意に減少
・重度の年間増悪率:吸入コリスチン群で有意に減少
・最初の重度増悪までの時間:吸入コリスチン群で有意に延長
・安全性: PROMIS-I試験では、治療下で発現した有害事象(TEAE)の発生率は両群で同程度だった(吸入コリスチン群81%、プラセボ群81%)。重篤なTEAEは吸入コリスチン群で18%、プラセボ群で23%だった。気管支痙攣は吸入コリスチン群で3%、プラセボ群で1%だった。治療関連死はなし。
【PROMIS-II試験】
・年間増悪率:両群とも0.89(率比1.00、95%信頼区間0.75-1.35、p=0.98)
・最初の増悪までの時間:吸入コリスチン群で53日長かったが、統計的有意差なし
・緑膿菌:吸入コリスチンで減少傾向
・その他の副次評価項目:統計的有意差なし
・TEAEの発生率は両群で同程度(吸入コリスチン群81%、プラセボ群77%)。重篤なTEAEは吸入コリスチン群で18%、プラセボ群で13%。気管支痙攣は吸入コリスチン群で5%、プラセボ群で2%。治療関連死はなし。
■limitation
・PROMIS-I試験とII試験のの不一致の主要因として、COVID-19パンデミックの影響が考えられる。PROMIS-I試験はパンデミック前にほぼ完了していましたが、PROMIS-II試験はパンデミック中に実施された。パンデミック期間中、社会的距離の確保、マスク着用、他の呼吸器感染症の減少などの要因により、気管支拡張症の増悪頻度が全体的に低下したことが報告されている。実際、PROMIS-II試験の中でもパンデミック前のデータを分析すると、PROMIS-I試験と一致する傾向が見られた。
・また、PROMIS-II試験は患者登録の困難さとPROMIS-I試験の肯定的な結果を受けて、予定より早く終了した。これにより、統計的検出力が低下した可能性がある。
■PROMIS-I試験の結果は、I-nebシステムを介して投与される吸入コリスチンが、緑膿菌慢性感染を有する気管支拡張症患者の増悪頻度を減少させ、QOLを改善させる可能性を示している。PROMIS-II試験ではこれらの結果が再現されなかったが、COVID-19パンデミックの影響が主要因と考えられる。
by otowelt
| 2024-09-14 00:22
| 呼吸器その他