REDOX研究:重度の低酸素血症に対する酸素療法は24時間必要か?
2024年 10月 19日
個人的には、酸素療法は1つのツールだと思っていて、「24時間つけないとだめです」「SpO2は90%を切ってはダメです」とは言ったことがないです。そのため、これまでいろんな人から白い目で見られてきました(笑)。
5年前に出版した『Dr.倉原の 呼吸にまつわる数字のはなし』より以下引用
『現場にはSpO2のいささかクリアカットな神話が広く根付いているため、安静時SpO2 が93%あっても労作時SpO2が89%ならば、「90%を下回っているのでよくない=酸素投与」という安易な結論になってしまいます。こういった議論は、臨床現場ではしばしば見かける光景だと思いますが、皆さんの病院ではいかがでしょうか? 医師の約束指示がある状況で、「SpO2<90%なのに酸素を投与しない」という選択肢はありえませんが、この90%という数値に麻痺しないでください。「SpO2は90%を境にして安全と危険に分かれている」という知識は間違いです。安全な89%もあれば、危険な91%もある。そういう世界なのです。』
15時間以上つけても、死亡リスクだけでなく、QOLも呼吸困難も有意差がついていません。健康な人でも睡眠時にSpO2が下がりやすいですから、重度の呼吸不全例では装着しておいたほうが無難かもしれません。酸素を外すなら、日中安静度でしょうか。
呼吸器内科医だけでなく、看護師やリハビリに携わる医療職にも知っていただきたい、歴史的な臨床試験です。
- 概要
■1980年代のNOTT研究とMRC研究以来、重度低酸素血症患者におけるLTOTのランダム化比較試験がなかった。この研究は、重度の低酸素血症患者に対する長期酸素療法(LTOT)の1日あたりの使用時間について、24時間と15時間を比較したランダム比較試験である。
■対象は、重度の低酸素血症(安静時PaO2<55 mmHgまたはSpO2<88%、もしくはPaO2<60 mmHgで右心不全や多血症合併)がある患者241名であり、LTOTを24時間/日(117名)または15時間/日(124名)遵守する群に割り付けられた。主要評価項目は、1年以内の入院または死亡とした。
■24時間群と15時間群で主要評価項目の発生率に有意差はみられなかった(ハザード比 0.99, 95%信頼区間0.72-1.36)。副次評価項目としての、全死亡、全原因入院、呼吸困難、疲労、健康状態、QOLなどについても、両群間に有意差はなかった。
■呼吸困難については、Multidimensional Dyspnea Profile (MDP) A1 スケールが用いられ、12か月時点において、24時間群: 平均スコア 4.46 ± 2.65 (46人評価)、15時間群: 平均スコア 4.05 ± 2.85 (59人評価)であり、有意差はついていない。ただ、MCIDは0.8ポイントとされているため、統計学的な差はないものの、効果に差がないとは言い切れない。
■疲労については、Functional Assessment of Chronic Illness Therapy (FACIT) scaleが用いられ、12か月時点において、24時間群: 平均スコア 22.51 ± 11.23 (37人評価) 、15時間群: 平均スコア 22.20 ± 9.78 (55人評価) であり有意差はついていない。MCIDは4.7ポイント。
■CATスコアは、24時間群: 平均スコア 21.56 ± 5.34 (43人評価) 、15時間群: 平均スコア 18.82 ± 7.28 (57人評価)であり、24時間群のほうが統計学的に有意差をもって悪いが、MCIDは2ポイント。
■本研究により、24時間/日のLTOTが15時間/日より優れているという従来の推奨は覆された。15時間/日で十分な効果が得られる可能性が高い。
【メモ:過去の関連研究】
・NOTT研究(1980年)
対象: COPD患者203名
結果: 24時間/日のLTOTが12時間/日より生存率改善(1年生存率 88% vs 77%)
・MRC研究(1981年)
対象: COPD患者87名
結果: 15時間/日以上のLTOTが無治療群より生存率改善(5年生存率 42% vs 0%)
・LOTT研究(2016年)
対象: 中等度の低酸素血症(SpO289-93%)または軽度の運動時低酸素血症のCOPD患者738名
結果: LTOTの死亡率・入院率改善効果なし
・INOX研究(2020年)
対象: 夜間低酸素血症のCOPD患者243名
結果: 夜間酸素療法の生存率改善効果なし
by otowelt
| 2024-10-19 18:08
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