日本における急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方

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高齢者の院長先生にどうはたらきかけるかが重要なのかもしれません。私の住んでいる地域でも、割と広域抗菌薬が多くなっています。私も、プライマリケアで遭遇しないような感染症ばかり診療しているので、ちょっと麻痺しているかもしれません。注意したいと思います。




  • 概要
■antimicrobial resistance(AMR:薬剤耐性)対策として、急性呼吸器感染症(ARI)に対する不適切な抗菌薬の処方を減らすことは重要な課題となっている。日本では2016年以降、外来での抗菌薬適正使用に向けた取り組みを実施してきましたが、その成果は限定的だった。本研究は、日本のプライマリ・ケアにおけるARIへの抗菌薬処方と診療所の特性との関連を明らかにすることを目的とした。

■Japan Medical Data Survey (JAMDAS) が収集する全国の診療所の電子健康記録データベースを用いて、2022年10月1日〜2023年9月30日、18-99歳の成人における非細菌性ARIの外来受診 (ICD-10コード:J00-J06またはJ20-J22)に対する抗菌薬処方について調べた。耳鼻咽喉科・小児科専門医が開設者である診療所や規定件数に達しない診療所などは除外された。多変量ロジスティック回帰分析によって、受診特性、都道府県を調整。全体的な抗菌薬処方:広域抗菌薬処方(第3世代セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン) 、その他の抗生物質処方の動向を調べた。

■本研究では、977,590件の受診(1,183診療所)を分析対象とした。患者の平均年齢は49.7歳で、56.9%が女性であった。全体の抗菌薬処方率は17.5%(171,483件)で、そのうち88.3%が広域抗菌薬であった。処方された抗菌薬の内訳を見ると、最も多く使用されたのはクラリスロマイシンで全処方の30.7%(52,662件)を占めていた。次いでレボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)の順であった。

■診療所特性との関連分析では、まず医師の年齢による違いが明確に示された。45歳未満の医師と比較して、60歳以上の医師では抗菌薬を処方する確率が2.14倍(95%信頼区間:1.56-2.92)、45-59歳では2.00倍(95%信頼区間:1.42-2.80)高くなっていた。患者数による影響も顕著で、患者数が多い診療所(上位3分の1)では、少ない診療所と比較して1.47倍(95%信頼区間:1.11-1.96)処方率が高くなっていた。一方、集団診療を行っている診療所では、単独診療と比べて処方率が29%低く(調整オッズ比:0.71、95%信頼区間:0.56-0.89)なっていた。医師の性別による有意差はなかった。特筆すべきは、こうした関連性は広域抗菌薬(第3世代セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン)では、上記の関連性がはっきりとあった一方、その他の抗菌薬(例:アモキシシリンなどの狭域抗菌薬)では、これらの関連性は見られなかった。

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. 急性気道感染症に対する抗菌薬の内訳(文献より作図)

■本研究の結果から、日本の一次医療における抗菌薬処方には、診療所の特性が大きく影響していることが明らかとなった。特に注目すべきは、処方された抗菌薬の約9割が広域抗菌薬であったことである。この高い広域抗菌薬使用率は、早急な対応が必要な課題といえる。 患者数の多い診療所での処方率の高さは、時間的制約や意思決定の疲労が影響している可能性がある。日本の医師は OECD平均の2倍の外来患者数を抱えており、この業務負担の重さが適切な処方判断を難しくしている可能性が示唆された。

■高齢医師での処方率の高さについては、抗菌薬適正使用に関する最新の教育機会の不足が一因として考えられる。継続的な医学教育の機会を提供することで、この差を縮小できる可能性がある。 本研究にはいくつかの限界がある。診断コードに依存していること、パンデミック前後の比較ができていないこと、JAMDASに含まれない診療所や他の診療環境への一般化可能性が限られることなどである。 しかしながら、これらの知見は進行中の抗菌薬適正使用推進活動において、より効果的な介入を計画する上で重要な示唆を与えている。特に、診療所の特性に応じた個別化された介入戦略の必要性を示唆しており、今後の政策立案に活用されることが期待される。





by otowelt | 2024-10-24 00:25 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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