PCP予防:低用量ST合剤 vs 標準用量ST合剤


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もはや、1日1錠のST合剤でなくてもよい、という結論になります。




Takeda K, et al. Efficacy and safety of a low-dose sulfamethoxazole/trimethoprim regimen in preventing pneumocystis pneumonia: A retrospective study using a large-scale electronic medical record database. J Infect Chemother. 2024 Oct 9:S1341-321X(24)00278-2.

  • 概要
■ニューモシスチス肺炎(PCP)は、HIV感染者および非HIV感染者の免疫不全患者に発症する重要な日和見感染症である。特に非HIV-PCP患者は、HIV-PCP患者と比較して病状の進行が早く、死亡率も高いことが知られている。 PCPの予防には、スルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)合剤が第一選択薬として使用されている。従来の標準用量レジメン(400/80 mg/日)が一般的であるが、副作用の発現率が高いことが臨床上の課題となっている。低用量レジメン(200/40 mg/日)の有用性を示唆する小規模研究は存在するが、大規模な実臨床データに基づくエビデンスは限られている。

■本研究は、日本全国の医療機関をカバーする大規模な電子カルテデータベースを用いて、非HIV患者におけるST合剤の低用量レジメンと標準用量レジメンの有効性と安全性を比較検討することを目的とした。

■後ろ向き観察研究であり、約2,000万人の患者データを含むRWDデータベースを使用している。対象期間は2007年6月から2023年2月までで、間質性肺炎、血液腫瘍、臓器移植、自己免疫疾患の患者でST合剤によるPCP予防を受けた非HIV患者を対象とした。投与レジメンは、1日あたり0.7 SSを超え1.5 SS以下を標準用量群、0.7 SS以下を低用量群として分類している(SS=400/80 mg=1錠)。

■解析対象となった19,357例のうち、標準用量群が11,384例、低用量群が7,973例であった。実際の投与量中央値は、標準用量群で1.06 SS/日(400/80 mg/日相当)、低用量群で0.50 SS/日(200/40 mg/日相当)であった。 有効性評価においては、PCP治療用量開始症例の累積発生率を比較した。標準用量群で0.67%、低用量群で0.47%であり、統計学的有意差は認められなかった(ハザード比0.76; 95%信頼区間0.49-1.18)。さらに、PCP発症リスクが高いとされる間質性肺炎急性増悪患者のサブグループ解析では、両群とも1.3%でPCPの治療開始されており、統計学的有意差はなかった。

■安全性評価では、すべての有害事象において低用量群は標準用量群と比較して1.0%~7.7%発現率が低かった。最も頻度の高い有害事象はeGFR低下であり、標準用量群で60.6%、低用量群で52.9%であった。一方、最も頻度の低い有害事象は貧血であり、標準用量群で17.6%、低用量群で15.1%であった。以下、すべて統計学的有意差あり。
・ALT増加:標準用量群 44.1% vs 低用量群 39.8%
・AST増加:32.5% vs 30.8%
・γ-GTP増加:35.4% vs 33.2%
・血清クレアチニン増加:35.3% vs 29.7%
・eGFR低下:60.6% vs 52.9%
・血小板数減少:36.8% vs 34.8%
・白血球減少:41.9% vs 40.9%
・貧血:17.6% vs 15.1%
・低ナトリウム血症:50.9% vs 47.0%
・高カリウム血症:43.1% vs 39.1%

■低用量群の定義は0.7 SS/日以下とされているが、実際の投与法については、この研究では検討されていない(0.5錠毎日 or 1錠週3回など)

■大規模な実臨床データに基づき低用量レジメンの有効性を実証した初めての研究である。PCP発症リスクの高い間質性肺炎急性増悪患者においても低用量レジメンの有効性を確認した。




by otowelt | 2024-10-28 03:23 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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