ニューモシスチス肺炎に対するステロイドはパルス用量でなくてよい
2024年 11月 25日
呼吸不全例67例がincludeされていますが、背景には結構な数に先んじてステロイドが入っていて、そういう症例にパルス用量はもうやめましょうという啓蒙的な意味合いもあります。
- 概要
■ニューモシスチス肺炎(PCP)は、HIV感染者や免疫不全患者における重要な日和見感染症である。非HIV感染者のPCPは、HIV感染者のPCPと比較して、より強い炎症反応と重度の低酸素血症を引き起こすことが報告されている。また、非HIV感染者のPCPの死亡率は30-60%とされており、HIV感染者の10-20%と比べて明らかに高い。近年の疫学研究では、非HIV感染者のPCPの発生率と死亡率が増加傾向にあることが示されている。PCPの第一選択薬はST合剤であり、低酸素血症を伴う患者には補助的なステロイド療法が推奨されている。しかし、非HIV感染者のPCPに対するステロイド療法の至適用量については、十分な検討がなされていない。
■本研究は、非HIV感染者のPCPに対するパルス用量でのメチルプレドニゾロン療法と中等量以下のステロイド療法の有効性を比較検討することを目的として実施された。2006年6月から2021年3月までの期間に日本の3つの三次医療機関で実施された多施設後ろ向きコホート研究である。対象は非HIV感染PCPと診断され、補助的ステロイド療法を受けた成人患者とした。PCPの診断は、宿主因子(HIV以外の免疫不全状態)、臨床基準(呼吸器症状、画像所見)、および微生物学的基準(PCPの検出またはβ-Dグルカン高値と標準治療への反応)に基づいて行われた。治療群は、初期投与量として500-1000mgのメチルプレドニゾロンを静注するパルス群と、それより少ない用量を投与する中等量以下群に分類された。主要評価項目は治療開始後30日死亡率、副次評価項目は180日死亡率とし、傾向スコア解析を用いて患者背景を調整した比較を行った。
■総患者139例(パルス用量のメチルプレドニゾロン群55例、中等量以下群84例)が解析対象となった。患者背景の調整後解析では、30日死亡率はパルス群14.2%、中等量以下群15.5%(P=0.850)、180日死亡率はパルス群33.5%、中等量以下群27.3%(P=0.516)であり、いずれも統計学的有意差は観察されなかった。呼吸不全患者67例に限定したサブグループ解析においても、30日死亡率(パルス群20.7%、中等量以下群27.7%、P=0.565)および180日死亡率(パルス群44.0%、中等量以下群36.3%、P=0.583)に有意差はなかった。
■この研究の主要な知見は、非HIV感染者のPCP治療において、パルス用量のメチルプレドニゾロン療法と中等量以下のステロイド療法の間で予後に有意差がなかったことである。この結果は、呼吸不全患者に限定したサブグループ解析でも同様であった。ステロイド使用に伴う有害事象の評価が含まれていないこと、動脈血ガス分析データが不十分で標準的な重症度分類が適用できなかったこと、ステロイド非使用群との直接比較ができなかったことなどのリミテーションもある。
■非HIV感染者のPCP治療において、パルス用量のメチルプレドニゾロン療法は中等量以下のステロイド療法と比較して、予後改善効果に有意差がなかった。このことから、中等量以下のステロイド療法で十分である可能性が示唆された。
by otowelt
| 2024-11-25 02:33
| 感染症全般