EMBARC-BRIDGE:気管支拡張症に対するMAC抗体のカットオフ値
2024年 11月 07日
日本における使用が当たり前になったMAC抗体。診断基準に採用すべきかどうかというパブコメがすすんでいるレベルなので、日本がリードしてよいと思います。
この研究でも示されているように、どの検査でもそうですが、カットオフ値を1つだと解釈して診療しないほうがよいです。定性的な診療になってしまうためです。
- 概要
■南ヨーロッパの気管支拡張症登録では約13%の患者が肺MAC症と診断されている。肺NTM症は気管支拡張症の治療可能な原因の一つであるため、国際ガイドラインでは気管支拡張症患者の初期評価・経過観察において抗酸菌培養検査を推奨している。しかし、喀痰排出が困難な患者の存在や、培養検査の感度が低く時間がかかることなど診断に課題がある。そこで、診断ツールとしてM. avium complex (MAC)のGPLコアに対するIgA抗体を検出するキットが開発され、日本では肺MAC症の診断ツールとして承認されている。
■本研究は、EMBARC-BRIDGEに登録された患者から、NTMが分離された患者32名と連続的に選択された208名の気管支拡張症患者、さらに対照群として基礎疾患のない42名を対象とした。血清GPL-コアIgA抗体価をキャピリアMAC抗体ELISAを用いて測定し、肺MAC症のスクリーニングにおける有用性を評価した。
■対象となった気管支拡張症患者240名のうち、196名(81.7%)がNTM感染なし、18名(7.5%)がNTM分離(全例MAC)、26名(10.8%)が肺NTM症(MACが23例、M. abscessusが3例)であった。抗GPL-コアIgA抗体価の中央値は、NTM感染なし群で0.2 U/mL、NTM分離群で0.3 U/mL、肺NTM症で1.5 U/mLであり、有意差がみられた(P=0.0001)。ROC解析では、気管支拡張症コホートにおける肺NTM症の診断能は優れており(AUC 0.886、95%CI 0.800-0.973)、NTM分離と肺NTM症の鑑別においても高い診断能を示した(AUC 0.816、95%CI 0.687-0.945)。
■本研究では、血清抗GPL-core IgA抗体検査のカットオフ値について、2つの重要な知見が得られた。第一に、気管支拡張症コホート全体(n=240)での肺NTM症のスクリーニングにおいて、メーカー推奨カットオフ値である0.7 U/mLでは、高い特異度(98.6%)と引き換えに感度が低く(61.5%)なることが示された。この場合、より低いカットオフ値である0.4 U/mLを採用することで、特異度を88.3%に維持しながら感度を80.8%まで向上させることが可能であることが明らかになった。すなわち、スクリーニング目的では0.4 U/mLのカットオフ値がより適している可能性が示唆された。
■第二に、NTM分離陽性例における肺NTM症の診断(n=44)に関して、Youdenの指標を用いて算出した最適カットオフ値が、メーカー推奨値と同じ0.7 U/mLとなることが判明した。この場合、感度65.4%、特異度94.4%という結果が得られた。この知見は、NTM分離陽性例から肺NTM症を診断する際には、メーカー推奨値が適切であることを示唆している。 これらの結果は、検査の使用目的によって異なるカットオフ値を選択する必要性を示唆している。
■本研究は、大規模な気管支拡張症コホートにおいて血清抗GPL-コアIgA抗体検査の有用性を示した最初の研究である。特に99%という高い特異度は、肺NTM症が疑われる気管支拡張症患者のスクリーニングに有用である。また、本検査はMACだけでなくM. abscessusなど他のNTM種による感染の検出にも有用であることが示された。
■血清抗GPL-コアIgA抗体検査は、気管支拡張症患者における肺NTM症のスクリーニングに優れた精度を示し、特にNTM分離例と肺NTM症の鑑別に有用であることが示された。スクリーニング目的では感度を重視した低いカットオフ値(0.4 U/mL)を、NTM分離陽性例からの診断では特異度を重視した高いカットオフ値(0.7 U/mL)を採用することが望ましいと考えられる。今後、この検査をどのように臨床現場に組み込んでいくかについての更なる研究が必要である。
by otowelt
| 2024-11-07 00:06
| 抗酸菌感染症