肺MAC症におけるクラリスロマイシンMICごとの微生物学的治癒率

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肺MAC症におけるCAMのMICは32以上で効果不良、というのは現在適応しているプラクティスと同等と言えます。感受性の場合、MICで効果に差がないことを示したのは、貴重な報告です。MICクリーピングみたいな感じだと分かりやすいかもしれませんが、MIC 8-16の株の数を眺めると、耐性遺伝子獲得して一気に振り切れるパターンが多いのでしょう。全体でだいたい5-6割くらいが培養陰性化していますが、実臨床でもNB:空洞=6:4のコホートでこういうイメージです。

昔より菌種同定を細かくみているので、M. chimaeraが増えてきましたね。全体の2.5%となっています。

個人的に注目しているのは、培養陰性化ではなく微生物学的治癒が主流になっているところです。治療終了していることが前提のアウトカムなので、こういうときに大規模なコホートがある韓国は相当強いです。




  • 概要
■この研究は、肺MAC症におけるクラリスロマイシン(CAM)のMICと治療効果との関係を調査したものである。現在、アジスロマイシン(AZM)やCAMなどのマクロライド系抗菌薬を中心とした長期の多剤併用療法が必要とされる。マクロライド耐性は治療失敗と関連することが知られているが、感受性範囲内でのMICの違いが治療効果に与える影響については、これまで明確になっていなかった。

■本研究では、2009年3月から2022年3月の間にソウル大学病院で肺MAC症の治療を開始した436名の患者を対象に後ろ向き研究を行った。患者の年齢中央値は65歳で、34%が男性であった。画像所見では、167例(44.9%)に空洞性病変がみられた。MAC菌種の内訳は、M. aviumが209例(47.9%)、M. intracellulareが216例(49.5%)、M. chimaeraが11例(2.5%)であった。

■CAM耐性株(MIC ≥32 µg/mL)による感染11例のうち、5例(45.5%)がNB型、6例(54.5%)がFC型であったCAMのMICによって患者を4群に分類し(≤0.5、1-2、4-8、≥32 µg/mL)、微生物学的治癒率を比較した。微生物学的治癒は、4週間以上の間隔で3回以上連続して培養陰性となり、治療完了まで陽性培養が認められないことと定義された。

■感受性範囲内(≤8 µg/mL)のMICの違いは、治療効果に有意な影響を与えないことが明らかになった。微生物学的治癒率は、MIC ≤0.5群で51.8%、1-2群で51.9%、4-8群で50.0%であった。一方、耐性株(MIC ≥32 µg/mL)による感染例では微生物学的治癒率が18.2%と低く、統計学的有意差には達しなかったものの、治療効果が劣る傾向がみられた。 この結果は、他の細菌感染症で見られるような、感受性範囲内でのMICの違いが治療効果に影響を与えるという現象とは異なるものであった。

■アジスロマイシン使用率87.6%、クラリスロマイシン使用率17.7%だった(切り替え症例あり)。

■limitation:大多数の患者がアジスロマイシンを使用していたにもかかわらず、クラリスロマイシンのMICデータのみを使用したこと、耐性株による感染例が少なく、耐性とその治療効果との関連を明確に示すことができなかったことが挙げられる。

■MIC16株がなかったこと:MIC 16 µg/mLの判定保留株が存在しなかったことや、MIC 8 µg/mLの株が限られていたことは、細菌の生存が二項的な耐性メカニズムに依存している可能性を支持する。

■肺MAC症の治療において、感受性範囲内でのCAMのMICの違いは治療効果に重要な影響を与えないことが示唆された。一方、MIC ≥32 µg/mLの耐性株による感染例では治療効果が劣る可能性があり、特別な注意が必要である。





by otowelt | 2024-11-09 00:54 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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