肺MAC症ガイドラインの遵守と死亡率
2024年 11月 16日
気管支拡張症を有する65歳以上のメディケア受給者における肺MAC症患者にしぼっているところがlimitationかと思います。ただ、「肺MAC症の現在地」を知る上では非常に貴重な報告です。
■肺MAC症は、気管支拡張症や肺気腫、嚢胞性線維症などの基礎疾患を有する患者に発症する慢性気道感染症である。慢性の咳嗽、疲労、寝汗、体重減少、抑うつなどの症状を伴い、再発や再燃を繰り返すことが特徴である。世界的に肺MAC症の有病率と発生率は増加傾向にあり、非罹患者と比較して死亡率が高いことが報告されている。肺MAC症の治療には通常、3-4種類の抗菌薬を1年以上使用する必要がある。しかし、薬物相互作用、副作用、有害事象、薬剤耐性の発現などにより、治療の中断や早期終了を余儀なくされることが多く、特に非ガイドライン治療(non-GBT)においては薬剤耐性のリスクが高まると考えられている。中でもマクロライド耐性は予後不良因子として知られている。米国胸部疾患学会/感染症学会(ATS/IDSA)のガイドラインに基づく治療(GBT)は、最も効果的な治療レジメンとして認識されており、良好な臨床転帰や経済的利点が示されているが、ガイドラインの遵守率は低いのが現状である。疾患の重症度や治療期間の長さ、合併症の存在、治療経過中のレジメン変更など、多くの要因が存在するため、治療レジメンが死亡率に与える影響を評価することは困難である。
■本研究は、2006年1月から2014年12月までのメディケアデータ(パートA、B、およびD)を用いた後ろ向きコホート研究である。65歳以上の気管支拡張症患者で、初めて肺MAC症治療を受けた患者を対象とした。嚢胞性線維症、HIV感染症、臓器移植歴のある患者は除外された。 肺MAC症治療は、マクロライド系抗菌薬と1つ以上の他の抗菌薬(リファマイシン、エタンブトール、フルオロキノロン、または静注/吸入アミカシン)を60日以上処方されたものと定義された。GBTは、2007年または2020年のATS/IDSAガイドラインに基づき、マクロライド系抗菌薬とエタンブトール、およびリファマイシンの有無による治療と定義された。
■主要評価項目は治療開始から3年以内の全死因死亡率で、以下の3つの比較が行われた: ①2007年GBT vs non-GBT、②2020年GBT vs non-GBT、③3剤併用(マクロライド+エタンブトール+リファマイシン)vs 2剤併用(マクロライド+エタンブトール)。解析には Cox比例ハザードモデルが使用され、人種、民族、居住地域、年齢、治療開始年、性別、治療期間、Charlson併存疾患指数、COPD/肺気腫、肺がん、関節リウマチ、喘息、各種併用薬などの交絡因子で調整が行われた。
■対象となった4,820人のうち、2007年ガイドライン基準では3,040人(63.1%)がGBT群、1,780人(36.9%)がnon-GBT群に分類された。2020年ガイドライン基準では3,713人(77.2%)がGBT群、1,096人(22.8%)がnon-GBT群となった。患者の特徴として、76.1%が女性、87.6%が白人で、年齢の中央値は77.8歳であった。気管支拡張症に加えて、75.0%がCOPD、55.3%が胃食道逆流症を合併しており、58.2%が治療開始前1年以内に経口ステロイドの処方を受けていた。初期治療レジメンの投与期間の中央値は176日であった。
■2007年GBT群の3年死亡率は15.5%(472人)で、non-GBT群は22.1%(394人)であった(調整ハザード比0.82、95%信頼区間0.72-0.94)。2020年の基準でも同様の傾向が見られ、GBT群の死亡率は16.8%(622人)、non-GBT群は22.2%(244人)であった(調整ハザード比0.81、95%信頼区間0.70-0.94)。3剤併用療法(3,032人)と2剤併用療法(682人)の比較では、3年死亡率はそれぞれ15.6%(472人)と22.0%(150人)であったが、統計的有意差は認められなかった(調整ハザード比0.89、95%信頼区間0.74-1.08)。ただし、Kaplan-Meier曲線では2剤療法群でより多くの死亡が観察されており、さらなる検討が必要である。
■本研究では、GBTを受けた患者の方がnon-GBT群と比較して3年死亡率が低いことが示された。3剤vs2剤の比較では統計的有意差は認められなかったが、2剤療法群でより多くの死亡が観察されており、この点については現在進行中の臨床試験(MAC2v3)からの追加情報が期待されている。本研究の強みとして、アメリカの肺MAC症患者における死亡率に関する大規模な人口ベースのデータを提供していること、高齢者における肺MAC症の特徴を反映していること、メディケアデータにより包括的な医療情報が得られていることが挙げられる。一方で、いくつかの重要な限界点も存在する。レセプトデータのみを使用しているため、疾患の重症度や薬剤耐性の有無を評価できていない。また、ADL状態や身体機能状態に関する直接的な評価も含まれていない。さらに、アミカシンの使用が全体的に少なく、これは毒性への懸念や保険償還の問題による可能性がある。適応による交絡も重要な考慮点である。より重症な患者や基礎疾患を持つ患者が2剤療法を選択されやすい可能性があり、この点は完全には調整できていない可能性がある。また、専門医の方がGBTを選択する傾向があることも報告されており、この要因も結果に影響を与えている可能性がある。
■本研究は、肺MAC症患者におけるGBTの重要性を支持する重要なエビデンスを提供している。GBTを受けた患者の方が良好な生存率を示したという結果は、ガイドラインに基づく治療の有用性を裏付けている。3剤vs2剤の比較については、現時点で明確な優劣を結論付けることはできない。この点については、現在進行中の無作為化比較試験の結果を待つ必要がある。また、個々の患者の状況に応じて、薬物相互作用、副作用、基礎疾患などを考慮した治療選択が重要である。
by otowelt
| 2024-11-16 00:59
| 抗酸菌感染症










