NTM-PDに対する気管支動脈塞栓術

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肺NTM症と空洞はまだまだ議論しつくされていないところがあります、盛り上がってほしいですね。


  • 概要
■近年、肺NTM症の症例数は世界的に増加傾向にあり、年間約4%の増加率が報告されている。肺NTM症の臨床経過は多様で、無症状で治療を必要としない症例から、栄養失調や呼吸不全に至り患者のQOLを著しく低下させる進行性の症例まで様々である。特に注目すべきは、一部の患者が喀血を経験することである。最近の研究によると、NTM-PDによる喀血の割合は2013年の6.25%から2023年には33.3%に増加したと報告されている。大量喀血の場合、保存的治療での死亡率は75%以上と高く、効果的な治療介入が必要とされている。 肺NTM症による難治性または大量喀血に対する主な治療選択肢は、BAEと外科的介入である。これらの選択に関する明確な基準は確立されていないが、低侵襲性からBAEが好まれる傾向にある。日本では、NTM症例の増加に伴い、NTM-PDに対するBAEの使用も増加している。しかし、術後に再出血が発生することがある。NTM-PDに限定しない場合の再出血率は9.8%から57.5%と報告されており、再出血を経験した患者は追加治療後でも再び出血を経験する可能性が高いことが知られている。さらに、NTM-PDに対するBAEは他の原因による場合と比較して再出血率が高いことが示されている。

■本研究は、2013年から2023年の間に国立国際医療研究センターでBAEを受けた155例のうち、肺NTM症に対して施行された18例を分析対象とした。患者を空洞性病変の有無によって空洞群と非空洞群に分類し、基本特性と臨床転帰を比較した。その結果、空洞群ではBAE後24ヶ月の再出血率が高い傾向を示し(37.5% vs 10.0%、p = 0.27)、非気管支動脈の関与が有意に多く(中央値:1.5 vs 0.0、p = 0.02)、抗菌薬による治療歴を持つ患者の割合が高く(100% vs 20%、p = 0.001)、診断からBAEまでの期間が長かった(中央値:9.0年 vs 0.6年、p = 0.02)。Kaplan-Meier曲線による分析では、空洞群で再出血までの期間が短い傾向が示された(p = 0.10)。

■研究チームは、空洞性病変が再出血リスク増加に寄与する機序として、2つの可能性を提示している。第一に、非気管支動脈の関与である。空洞群では非気管支動脈数が有意に多く、塞栓血管数も多い傾向にあった。これは、責任血管の見落としによる不完全な塞栓のリスクが高いことを示唆している。第二に、基礎疾患である肺NTM症の進行である。空洞性病変は肺NTM症の予後不良因子として知られており、空洞群で抗菌薬による治療歴を持つ患者が多かったことは、治療にもかかわらず病気が進行し喀血に至ったことを示唆している。 本研究には、サンプルサイズが小さいこと、単施設研究であること、再出血までの期間が患者の報告に依存していること、肺動脈造影が実施されていないことなど、いくつかの限界がある。しかし、これらの結果は、NTM-PDに対するBAEにおいて、空洞性病変を有する患者では再出血のリスクが高い可能性を示唆している。今後、より大規模な多施設共同研究によって、これらの知見を検証し、治療戦略の最適化につなげることが期待される。





by otowelt | 2024-11-28 02:55 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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