フルオロキノロンと気胸リスク
2025年 03月 22日
フルオロキノロンと大動脈疾患の関連が取りざたされてから、あらゆる疾患でのキノロンリスクが注目されました。気胸はそのうちの1つですが、そんなに心配しなくても大丈夫そうですね。
- 概要
■フルオロキノロン系抗菌薬は、腱断裂や大動脈瘤、網膜剥離などのコラーゲン関連の重篤な副作用を引き起こす可能性があることが知られている。これらの抗菌薬は、特にI型とIII型コラーゲンの合成を減少させ、MMPの発現を上昇させることで、結合組織に影響を与える可能性がある。そのため、肺の結合組織にも影響を与え、自然気胸のリスクを高める可能性が懸念されていた。
■この研究は、フルオロキノロン系抗生物質と自然気胸のリスクとの関連性を調査した全国規模の症例・時間・対照デザイン(case-time-control study)である。この手法では、同一患者内で異なる時点における薬剤使用状況を比較することで、個人に固有の交絡因子(喫煙、遺伝的要因など)を調整できる。また、時間経過に伴う曝露の増減によるバイアスを考慮するため、時間トレンド対照群(time-trend control group)を設定した。
■研究チームは、2017年から2022年までのフランスの全国健康保険データベースを用いて調査を実施した。自然気胸で救急入院した18歳以上の患者を対象とし、フルオロキノロン使用のリスク期間(入院前30日間)と3つの対照期間(入院前180-151日、150-121日、120-91日)を比較した。時間トレンドによるバイアスを調整するため、気胸のない対照群も設定された。また、適応症によるバイアスを評価するため、アモキシシリンを活性対照薬として使用した。
■フルオロキノロン使用群246例のうち、63例がリスク期間に、128例が対照期間に曝露していた。アモキシシリン使用群3,316例では、1,210例がリスク期間に、1,603例が対照期間に曝露していた。曝露トレンドと共変量で調整したオッズ比は、フルオロキノロンで1.59(95%信頼区間: 1.14-2.22)、アモキシシリンで2.25(2.07-2.45)であった。 この結果は、両方の抗菌薬使用と自然気胸との間に関連性があることを示したが、アモキシシリンの方がより強い関連性を示した。アモキシシリンには肺結合組織への毒性作用の理論的根拠がないことから、この関連性は抗生物質自体の直接的な影響というよりも、抗菌薬治療を必要とする基礎疾患(感染症)の影響である可能性が高いと考えられた。
■研究の強みとして、全国規模のデータベースの使用、自己対照デザインによる時間固定共変量の調整、活性対照薬の使用が挙げられる。一方、限界として、医療情報や処方理由の欠如、入院を要する重症例のみを対象としていること、などが考えられる。
■フルオロキノロン系抗生物質の肺結合組織への潜在的な毒性についての懸念はやや安心できる結果であった。
by otowelt
| 2025-03-22 00:41
| 呼吸器その他