ENPADE調査:肺NTM症の診療に満足しているか?
2025年 03月 11日
肺NTM症の啓発がうまくいっていないのか、ほとんどの患者さんが聞いたことがないとおっしゃいます。せっかくマスメディアに訴求できる立ち位置にいるのだから、何とかせねば・・・。
- 概要
■肺NTM症(NTM-PD)は、診断・治療の面で依然として大きな課題を抱える疾患である。特に、慢性肺疾患や免疫不全を有する患者において罹患率が高く、診断の遅れや治療の困難さが指摘されている。NTM-PD患者のQOLや疾患の社会的影響についての包括的なデータは不足しており、特に患者の視点から見た疾患負担についての研究は限られている。
■本研究では、欧州8か国(オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国)を対象に、患者のNTM-PDに関する経験を明らかにすることを目的としたENPADE調査である。調査はオンラインアンケートと半構造化インタビューを用いて行われ、患者の診断前後の医療体験、QOL、社会的影響、感情的負担などが評価された。
■ENPADE調査は2021年6月から2022年2月にかけて実施された。調査は2つのパートに分かれており、パートAではオンラインアンケートが行われ、パートBでは一部の患者を対象に半構造化インタビューが実施された。
・パートA:オンラインアンケート:過去のNTM-PDに関する調査やFDAの患者PFDDガイドラインを参考に設計された。患者の診断・治療歴、医療機関での経験、治療満足度、生活や社会活動への影響についての33問の質問が含まれた。英語で作成された後、対象国の言語に翻訳され、患者団体やソーシャルメディアを通じて広く募集が行われた。
・パートB:半構造化インタビュー:オンラインアンケートを完了した患者を対象に、Microsoft TeamsやZoomを用いてインタビューが実施された。インタビューは、アンケートの内容を掘り下げる形で行われ、診断や治療の過程における課題、情報提供の質、患者-医師関係などが詳細に調査された。
■調査には2325名が参加し、そのうち543名がNTM-PDと診断された患者としてアンケートに完全回答した。回答者の大半(73%)が女性であり、82%が50歳以上であった。併存疾患としては、COPD(27%)、気管支拡張症(25%)、喘息(12%)、免疫機能低下(11%)が多く報告された。 治療面では、75%の患者が抗菌薬を含む治療を受けており、そのうち80%が調査時点でも治療を継続していた。一方、15%の患者は治療を受けておらず、経過観察のみであった。
■診断前後の医療満足度は5.9(10点満点)と中程度であり、診断前の紹介・専門医へのアクセスについては不満の声が多かった。診断前のケアに関しては、26%が「非常に不満」、33%が「非常に満足」と回答しており、特に診断までの時間や適切な医師への紹介の遅れが課題とされた。 治療の過程では、治療目標の明確さや担当医の説明については比較的満足度が高かったが、薬物療法に関しては「服薬の負担」や「副作用」への不満が多く、35%が服薬の多さ、28%が薬剤の副作用について「非常に不満」と回答した。 日常生活・社会活動への影響 患者の約半数(49%)がNTM-PDによる生活の制限を「非常に強く感じる(8~10点)」と評価した。また、43%が社会活動の制限を強く感じており、特に「友人関係の維持(平均5.4点)」や「社交イベントへの参加(6.2点)」が大きく影響を受けていた。 仕事への影響 NTM-PD診断時に就業していた患者の54%が、疾患が仕事に悪影響を及ぼしていると回答した。特に31%の患者は「極めて大きな影響(-8~-10点)」を受けていると述べ、疲労による業務負担の軽減や、職場での疾患の隠蔽といった問題が浮き彫りになった。
■感情面では、75%の患者がNTM-PDが精神的に悪影響を及ぼしていると回答し、特に「うつや不安の増加(82%)」「神経過敏(68%)」が報告された。また、患者の19%は家族への影響を「非常に大きい」と評価しており、疾患が家族関係にも影響を及ぼしていることが示唆された。
■本調査では、NTM-PD患者の診断・治療の遅れ、医療満足度の低さ、日常生活・社会活動への影響が明らかとなった。特に、診断までの時間や適切な医療機関へのアクセスが課題であり、患者の約3割が診断に不満を抱いていた。これは、NTM-PDの認知度が低く、既存の肺疾患と症状が重なるために診断が遅れることが一因と考えられる。 また、治療の面では、多剤併用療法による負担や副作用の管理が課題であり、患者の満足度向上には治療の個別化や副作用への十分な情報提供が必要である。さらに、感情的・社会的影響を軽減するためには、心理的サポートや職場での配慮、社会的支援の充実が求められる。 本調査の結果を踏まえ、NTM-PDの診断・治療プロセスの改善、情報提供の強化、患者中心の包括的ケアの導入が急務である。
by otowelt
| 2025-03-11 01:23
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