難治性肺MAC症に対するアミカシンリポソーム吸入懸濁液(アリケイス)の効果とアミカシン耐性率

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今日は、私たちの論文を紹介させてください。当院は難治性肺MAC症に対するアリケイス導入実績が割と多い病院で、6か月以上使用した44例にしぼって解析をおこなった後ろ向き観察研究です。喀痰検査が不足している、などの脱落例も多かったので、後ろ向き研究をやるとしても施設でしっかりとデータをそろえておく重要性を痛感しました。

アリケイスは、難治性に用いる前提で承認された薬剤ではありますが、NB型に使った方が効果は高いと考えられます。多発空洞ができてしまうと、アリケイスの効果が出にくいです。たとえ培養陰性化しても、空洞がまだ残っていたり、喀痰症状が多かったりする症例もあり、重症例ほど患者報告アウトカム(PRO)のほうが大事なのかもしれません。

この研究では、アリケイス投与後のアミカシン耐性率についても調べており、結核研究所に依頼してrrs変異がどのくらい入っているかを検討しています。長らく続けていると、やはりMICが高い株が検出されやすいです。アリケイス投与後の培養持続陽性例において、マクロライド耐性+アミカシン耐性というクロス耐性に陥ると、治療選択肢が厳しい状況になります。

アリケイスにおいては、間欠投与も重要なテーマです。意外と培養陰性化を達成していることが分かりました。



  • 概要
■この研究は、難治性肺MAC症に対するアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS;アリケイス)の効果と、アミカシン耐性発現のメカニズムを調べたものである。


■国立病院機構近畿中央呼吸器センターで2021年8月~2023年12月の間にALIS治療を開始し、最低6ヶ月間治療を受けた難治性MAC-PD患者44名を対象に後ろ向き分析を実施した。


■対象患者の年齢中央値は72.0歳で、女性が多数(84.1%)を占めていた。非空洞性結節気管支拡張型(NC-NB)が19名(43.2%)、空洞型が25名(56.8%)であった。


■全体の喀痰培養陰性化率は56.8%(25/44)であったが、NC-NB型では84.2%(16/19)、空洞型では36.0%(9/25)と有意な差が見られた(p = 0.001)。さらに、間欠的投与を受けた患者18名のうち9名(50.0%)でも培養陰性化が達成された。培養陰性化の中央時間は147.0日であり、陰性化を達成した25名のうち18名(72.0%)はALIS開始から6ヶ月以内に陰性化した。


※ALIS間欠投与の定義:3ヶ月以上の期間にわたって処方された薬剤の80%以下しか受けていない場合。典型的な35日間の処方サイクルでは、患者は3ヶ月間で3回の処方(合計105バイアル)を受けるはずだが、このうち84バイアル以下(期待される105バイアルの80%以下)しか受けなかった場合、間欠的投与と分類。


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図. 難治性肺MAC症に対するNC-NB型と空洞型の培養陰性化率(CC BY 4.0)


■培養持続陽性を予測する因子として、血清CRP≥ 1 mg/dL、空洞型、クラリスロマイシン(CLM)耐性の3つが重要であることが判明した。これら3つの特性をすべて持つ患者は、CRP < 1 mg/dL、NC-NB型、CLM感受性の患者と比較して、培養陽性のリスク比が10.81(95%信頼区間:1.66–70.40)と高かった。


■副作用としては、軽度の発声障害が21名(47.7%)で発生し、その中央発現日は11日であった。この症状により、16名が間欠的投与に移行した。その他に咳や呼吸困難(各11.4%)、口腔咽頭痛(13.6%)、疲労感(9.1%)などが報告されたが、ほとんどの症例で治療は継続可能であった。声障害が治まった後も8名の患者(50.0%)は間欠的投与の継続を希望した。


■アミカシン耐性に関して、培養持続陽性19名のうち7名(36.8%)でアミカシン耐性(MIC ≥ 128 µg/mL)がみられた。ALIS投与全患者44例からみれば、15.9%がこれに相当した。7名のアミカシン耐性例のうち5名(71.4%)でrrs遺伝子変異が確認され、4名がposition 1408の変異、1名がposition 1491の変異であった。rrs変異があるすべての症例で、既存のCLM耐性との交差耐性が確認された。アミカシン耐性発現例の71.4%は空洞型であり、アミカシン感受性例の8.8%と比較して有意に高かった(p = 0.0096)。


■難治性肺MAC症に対するALISを含むレジメンは、空洞型よりもNC-NB型で高い培養陰性化率を達成する。ALIS投与中に発現するアミカシン耐性は、難治性MAC-PDの治療選択肢を制限する可能性があることが示唆される。






by otowelt | 2025-03-03 00:16 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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