メタアナリシス:MAC症に対する2剤治療 vs 3剤治療


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現時点でのエビデンスでは、播種性MAC例に対しては基本的に3剤を推奨、肺MAC症に対しては2剤も可能という結論になっています。





  • 概要
■播種性MAC症と肺MAC症を含めたこのメタ解析では、7件のランダム化比較試験(RCT)と3件の非RCT研究を含む、計1,369名の患者データが解析された。

■播種性MAC症は7件の研究(6件のRCTと1件の後ろ向きコホート研究)で801名の患者が含まれ、肺NTM症については3件の研究(1件のRCTと2件の後ろ向き研究)で568名の患者が含まれた。マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)を含む2剤併用療法と3剤併用療法の効果を、細菌学的反応(培養陰性化)、マクロライド耐性獲得(AMR)、死亡率の観点から比較検討している。


■播種性MAC症に関して、2剤併用療法は3剤併用療法と比較して、細菌学的反応(オッズ比0.76、95%信頼区間0.48-1.18、P=0.22)や死亡率(オッズ比1.29、95%信頼区間0.59-2.83、P=0.52)に有意差はなかったが、マクロライド耐性獲得リスクが高いことが示された(オッズ比2.99、95%信頼区間1.10-8.13、P=0.03)。播種性MAC症におけるマクロライド耐性獲得リスクの増加は、MayらとDubéらの研究(1997年)の結果に影響されており、これらの研究では高用量クラリスロマイシン(2g/日)が使用されていた。この高用量は、後にMAC症治療において不良転帰と関連していることが示されている。


■肺MAC症に関して、2剤併用療法は3剤併用療法と比較して、細菌学的反応(オッズ比0.82、95%信頼区間0.53-1.25、P=0.35)およびマクロライド耐性獲得(リスク差0.01、95%信頼区間-0.02〜0.05、P=0.39)において非劣性であり、どちらの治療法でも死亡例は観察されなかった。3件の研究(318名の患者)でマクロライド+エタンブトール(M+E)レジメンと、マクロライド+エタンブトール+リファマイシン(M+E+R)レジメンの比較がなされ、細菌学的反応(オッズ比1.54、95%信頼区間0.78-2.93、P=0.23)やマクロライド耐性獲得リスク(リスク差0.01、95%信頼区間-0.02〜0.04、P=0.50)に有意差がなかった。また、2件の研究(212名の患者)ではマクロライド+リファマイシン(M+R)レジメンとM+E+Rの比較が行われ、統計的に有意ではないものの細菌学的反応が低下する傾向が見られた(オッズ比0.51、95%信頼区間0.14-1.90、P=0.32)。


■副作用と治療中断についても分析が行われ、10研究中9研究で副作用が報告され、最も頻繁に観察されたのは消化器系の副作用であった。7研究では副作用による治療中断が報告され、そのうち5研究は両治療群について個別に報告していた。3剤併用療法は2剤併用療法よりも副作用発生率が高い傾向にあり、治療中断率も2剤併用療法の方が低い傾向が示された(オッズ比0.74、95%信頼区間0.47-1.14、P=0.17)。播種性MAC症と肺MAC症における治療反応の差異は、臨床的特徴の違いに起因すると考えられる。播種性では宿主の免疫機能が著しく低下しており、抗酸菌の増殖・複製を効果的に制御することが困難である。抗酸菌は通常無菌である組織で広範囲に増殖でき、血液、骨髄、リンパ節などから高い割合で陽性培養が得られる。対照的に、肺MAC症は主に肺に限局しており、抗酸菌は呼吸器検体からのみ培養される。活発に複製する抗酸菌負荷の違いが、2剤併用療法の有効性の差の主な理由である。


■肺MAC症の治療においては、マクロライド+エタンブトールの2剤併用療法が有効な選択肢となる可能性があり、播種性MAC症は3剤併用療法での管理が望ましいとされている。ただし、リファマイシンとマクロライドの間には複雑な相互作用があり、例えばリファンピシンによるCYP3A4の誘導により、マクロライドの曝露が有意に減少する。このため、MACの治療においてリファマイシンを2剤併用レジメンに含めることは推奨されない。


■この研究にはlimitationがある。まず、解析された研究間で大きな異質性があった。次に、ART時代に播種性MAC症が大幅に減少したため、2003年以降に2剤と3剤の比較研究はなかった。また、非RCT研究も含まれており、バイアスのリスクが増加する可能性がある。


■播種性MAC症では、3剤併用療法が推奨される。これは2剤併用療法と比較して、細菌学的反応や死亡率に有意差はないものの、マクロライド耐性獲得のリスクが2剤併用療法では有意に高かったためである。肺MAC症では、マクロライド+エタンブトールの2剤併用療法が有効な選択肢となりうると結論づけられる。肺MAC症においては、2剤併用療法と3剤併用療法の間で、細菌学的反応やマクロライド耐性獲得に有意差がなく、また両方の治療法で死亡例が観察されなかったためである。






by otowelt | 2025-03-09 00:11 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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