メタアナリシス:MAC症に対する2剤治療 vs 3剤治療
2025年 03月 09日
- 概要
■播種性MAC症に関して、2剤併用療法は3剤併用療法と比較して、細菌学的反応(オッズ比0.76、95%信頼区間0.48-1.18、P=0.22)や死亡率(オッズ比1.29、95%信頼区間0.59-2.83、P=0.52)に有意差はなかったが、マクロライド耐性獲得リスクが高いことが示された(オッズ比2.99、95%信頼区間1.10-8.13、P=0.03)。播種性MAC症におけるマクロライド耐性獲得リスクの増加は、MayらとDubéらの研究(1997年)の結果に影響されており、これらの研究では高用量クラリスロマイシン(2g/日)が使用されていた。この高用量は、後にMAC症治療において不良転帰と関連していることが示されている。
■肺MAC症に関して、2剤併用療法は3剤併用療法と比較して、細菌学的反応(オッズ比0.82、95%信頼区間0.53-1.25、P=0.35)およびマクロライド耐性獲得(リスク差0.01、95%信頼区間-0.02〜0.05、P=0.39)において非劣性であり、どちらの治療法でも死亡例は観察されなかった。3件の研究(318名の患者)でマクロライド+エタンブトール(M+E)レジメンと、マクロライド+エタンブトール+リファマイシン(M+E+R)レジメンの比較がなされ、細菌学的反応(オッズ比1.54、95%信頼区間0.78-2.93、P=0.23)やマクロライド耐性獲得リスク(リスク差0.01、95%信頼区間-0.02〜0.04、P=0.50)に有意差がなかった。また、2件の研究(212名の患者)ではマクロライド+リファマイシン(M+R)レジメンとM+E+Rの比較が行われ、統計的に有意ではないものの細菌学的反応が低下する傾向が見られた(オッズ比0.51、95%信頼区間0.14-1.90、P=0.32)。
■副作用と治療中断についても分析が行われ、10研究中9研究で副作用が報告され、最も頻繁に観察されたのは消化器系の副作用であった。7研究では副作用による治療中断が報告され、そのうち5研究は両治療群について個別に報告していた。3剤併用療法は2剤併用療法よりも副作用発生率が高い傾向にあり、治療中断率も2剤併用療法の方が低い傾向が示された(オッズ比0.74、95%信頼区間0.47-1.14、P=0.17)。播種性MAC症と肺MAC症における治療反応の差異は、臨床的特徴の違いに起因すると考えられる。播種性では宿主の免疫機能が著しく低下しており、抗酸菌の増殖・複製を効果的に制御することが困難である。抗酸菌は通常無菌である組織で広範囲に増殖でき、血液、骨髄、リンパ節などから高い割合で陽性培養が得られる。対照的に、肺MAC症は主に肺に限局しており、抗酸菌は呼吸器検体からのみ培養される。活発に複製する抗酸菌負荷の違いが、2剤併用療法の有効性の差の主な理由である。
■肺MAC症の治療においては、マクロライド+エタンブトールの2剤併用療法が有効な選択肢となる可能性があり、播種性MAC症は3剤併用療法での管理が望ましいとされている。ただし、リファマイシンとマクロライドの間には複雑な相互作用があり、例えばリファンピシンによるCYP3A4の誘導により、マクロライドの曝露が有意に減少する。このため、MACの治療においてリファマイシンを2剤併用レジメンに含めることは推奨されない。
■この研究にはlimitationがある。まず、解析された研究間で大きな異質性があった。次に、ART時代に播種性MAC症が大幅に減少したため、2003年以降に2剤と3剤の比較研究はなかった。また、非RCT研究も含まれており、バイアスのリスクが増加する可能性がある。