アレルギー性気管支肺アスペルギルス症に対して生物学的製剤は有効か?


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ABPAに対してバイオが効果的であることは呼吸器内科医の多くが実感していると思いますが、まとまった後ろ向き解析が増えてきた印象です。通常の喘息よりも寛解率は劣るかもしれませんが、末梢血好酸球数やFeNOが高い症例が多いので、OCSや抗真菌薬を漫然と続けるよりはるかに良いと考えます。症状として喘息を合併するので、保険病名としても喘息でまったく問題ありません。




  • 概要
■アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、は喘息患者の約2.5%、嚢胞性線維症患者の約7.8%に合併することが報告されている。患者は典型的には、喘鳴、粘液栓などの呼吸器所見を呈し、時に全身症状も伴う。診断は2024年に更新されたISHAMの基準に基づき、2つの必須基準(Aspergillus特異的IgE陽性と総IgE値上昇)と3つの補助基準のうち2つ(Aspergillus特異的IgG値上昇、末梢血好酸球増多、放射線学的所見)を満たす必要がある。

■ABPAの従来の治療は主に経口コルチコステロイド(OCS)とトリアゾール系抗真菌薬に依存してきた。しかし、長期的なOCS使用は体重増加、骨粗鬆症、高血糖などの重大な副作用を伴い、トリアゾール系抗真菌薬も肝毒性や光線過敏症などの副作用により長期忍容性が低いことが多い。近年、2型炎症を標的とする生物学的製剤療法がABPA治療の新たな選択肢として注目されている。

■イギリスのロイヤル・ブロンプトン病院で実施された本研究は、2015年から2023年までの間にABPAと診断され、生物学的製剤療法を開始した74名の患者を対象とした後ろ向き解析である。患者は改訂ISHAM基準に基づいてABPAと診断され、多くは難治性症状または重度の喘息に対する治療として生物学的製剤が投与された。

■コホートの内訳は、抗IgE療法(オマリズマブ)を受けた患者が24名(32%)、抗IL-5/5R療法(メポリズマブ、ベンラリズマブ、レスリズマブ)を受けた患者が48名(65%)、抗IL-4R療法(デュピルマブ)を受けた患者が2名(3%)であった。患者の50%が女性で、平均年齢は56.2±17.3歳、53名(72%)が白人であった。ベースラインの評価では、患者の61.2%が維持経口コルチコステロイド(mOCS)を必要とし、平均のプレドニゾロン使用量は1日あたり5mg(中央値)であった。患者は平均して12か月間に4回の増悪を経験し、6項目喘息コントロール質問票(ACQ-6)スコアは平均3±1.42であった。ベースラインのCT画像が利用可能だった69名の放射線学的フェノタイプでは、粘液栓(48%)と気管支拡張症(45%)が最も一般的な特徴であり、38%の患者はCT上にABPAの放射線学的特徴を示さず、血清学的ABPAフェノタイプを示していた。9名(12%)の患者が喀痰微生物学に基づくAspergillus定着を示し、33名(44%)がAspergillus IgG≥27mgA/Lを有していた。

■治療開始後、患者は6か月目に最初の反応を評価され、さらに6か月後(治療開始から12か月後)に再評価された。治療開始12か月後の評価では、48名(65%)の患者が多職種チーム(MDT)によって臨床的に良好な反応を示したと判断された。これは重症喘息における生物学的製剤の実臨床での反応率(80-85%)と比較すると若干低いものの、同様の中止・変更率であった。26名の患者は12ヶ月の評価時点または以前に生物学的製剤療法を中止した。21名(28%)は不十分な臨床反応、4名(5%)は副作用(反復感染、発疹、疲労、筋肉痙攣、頭痛など)のため中止した。1名(1.3%)は重度の精神健康問題の発症により中止した。

■12か月後には、ACQ-6スコア(p<0.0001)、12か月間の増悪頻度(p<0.0001)、およびmOCS使用量(ベースライン:5mg/日(1mg)、治療後:3mg/日(5mg)、p=0.0173)に有意な改善が見られた。サブグループ分析では、ACQ-6スコアの改善は抗IgEと抗IL-5/Rの両療法で維持されたが、増悪頻度の有意な改善は抗IL-5/R療法を受けた患者でのみ観察された。治療反応を予測する因子を特定するため、ACQの最小臨床的に重要な差(MCID)を用いて臨床反応または不応を判定した後の解析では、粘液栓の存在が生物学的製剤療法への反応低下と有意に関連していた(p=0.0189)。これは従来の重症喘息研究で生物学的製剤開始後に粘液栓が減少するという報告とは対照的であった。肺機能に関しては、生物学的製剤療法12か月後に小さいが有意な1秒量改善がみられた。

■本研究の結果は、ABPAの治療における生物学的製剤、特に抗IL-5/5R療法の有効性を示唆している。ABPAにおける好酸球性およびアトピー性炎症の標的化は、経口コルチコステロイドまたはトリアゾール系抗真菌薬に難治性の患者、およびステロイドを温存する治療選択肢を必要とする患者にとって、有用な治療戦略となる可能性がある。




by otowelt | 2025-04-07 00:33 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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