iREC試験:NB型肺MAC症に対する治療の毎日投与と週3回間欠投与のランダム化比較試験

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東名古屋病院の中川拓先生を中心に実施された、多施設共同研究の集大成です。NB型に関しては週3回投与で問題ないとする結果です。統計学的有意差はないですが、治療レジメンの変更率はかなり低い印象です。





  • 概要
■本研究は、空洞を伴わない結節性気管支拡張型(noncavitary nodular bronchiectatic:NB型)の肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に対する治療として、従来の日本における標準的な毎日投与(daily therapy)と、米国や欧州で推奨される週3回の間欠投与(intermittent therapy)の有効性と安全性を直接比較した初の前向きランダム化比較試験である。

■肺MAC症は、疾患の放射線学的な分類に基づき、適切な治療レジメンが選択されるが、本研究の対象となった非空洞性NB型肺MAC症Dは、比較的軽症であり、間欠投与が選択されることがある。しかし、これまで間欠投与と毎日投与を直接比較したランダム化試験は存在せず、本研究の実施が求められていた。 この多施設共同研究では、日本国内21の医療機関において、未治療の非空洞性NB型肺MAC症患者141名を登録し、70名を間欠投与群、68名を毎日投与群に割り付けて、1年間の治療と観察を行った。間欠投与群では、クラリスロマイシン(CLR)1000mg(分2)、リファンピシン(RIF)600mg、エタンブトール(EMB)25mg/kg(最大1000mg)を週3回投与し、毎日投与群ではCLR 800mg(分2)、RIF 450mg、EMB 15mg/kg(最大750mg)を毎日投与した。主評価項目は、治療レジメンの変更を必要とした患者の割合とし、副次評価項目としては、喀痰培養陰性化率、胸部CT所見の改善、健康関連QOL(HRQL)の変化、有害事象の発生頻度などが設定された。

■主評価項目である治療レジメンの変更率は、間欠投与群で20.0%、毎日投与群で33.8%であり、間欠投与の方が良好な傾向を示したが、統計学的な有意差は認められなかった(補正オッズ比0.48、95%CI: 0.22–1.05、p=0.06)。一方、喀痰培養陰性化率(70.3% vs. 80.0%、p=0.53)、培養陰性化までの期間(中央値28.0日 vs. 28.5日、p=0.89)、胸部CTの改善率(60.9% vs. 71.0%、p=0.30)にも有意差はなく、有効性の面では両群に大きな差はなかった。また、CLM耐性の出現率も1.4%(間欠)と0%(毎日)であり、群間差はみられなかった。

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図. レジメン変更率(文献より引用、オープンアクセス)

■安全性に関しては、ASTやALTの上昇は毎日投与群で有意に多く認められ(AST: 41.2% vs. 16.9%、p=0.003、ALT: 44.1% vs. 18.3%、p=0.002)、肝機能障害のリスクは間欠投与の方が低い可能性が示唆された。反対に、血中ビリルビン値の上昇(11.3% vs. 1.5%、p=0.04)や味覚異常(14.1% vs. 1.5%、p=0.01)は間欠投与群で多くみられた。視神経障害の発生率に関しては、両群間で有意差はなかったが、従来報告と比較して毎日投与群における発生率は低く、EMBの投与量設定(15mg/kg未満)や対象者の年齢分布などが影響している可能性がある。QOL評価では、SGRQでは両群間で有意差はなかったが、SF-36の身体的側面スコアにおいては、毎日投与群での改善が間欠投与群よりも有意に大きかった(2.1ポイント vs. -2.5ポイント、p=0.01)。この結果は、薬剤のピーク濃度が高くなる間欠投与の影響が体調面に現れた可能性を示唆している。

■結論として、本研究では、非空洞性NB型肺MAC症に対する治療において、間欠投与は毎日投与と比較して治療変更の頻度が少なく、一定の忍容性と有効性を示したが、統計学的な有意差は得られなかった。より大規模な研究を通じて、どのような患者が間欠投与に適しているのかを明らかにし、患者の病態や希望に応じた個別化治療を進めていくことが求められる。また、新規薬剤や2剤レジメンといった治療選択肢の拡充と、抗菌薬耐性の抑制という観点も踏まえた、より持続可能な治療戦略の確立が必要である。





by otowelt | 2025-03-30 13:01 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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