アミカシンのMICは肺MAC症の培養陰性化と相関しない?
2025年 04月 28日
- 概要
■本研究は2005年10月から2018年12月にかけて韓国ソウルの三次医療機関でMAC-PDと診断され、少なくとも6か月以上の治療を受け、かつアミノグリコシド製剤を8週間以上投与された患者を対象とした。感受性試験(DST)のデータが得られない症例は除外され、最終的に30名が解析対象となった。
■対象患者の年齢中央値は57歳、70%が女性であった。主要な起因菌はM. intracellulare(46.7%)、M. avium(43.3%)であった。空洞形成は73.3%に認められた。治療期間の中央値は16.4か月であり、アミカシン(AMK)またはストレプトマイシン(SM)が併用された。AMK使用群はSM群に比してアミノグリコシド使用期間が長く、中央値38.9週間であった(SM群は15.0週間、p = 0.049)。
■喀痰培養陰性化率は60.0%、全死亡率は20.0%であった。アミカシン感受性株は80.0%に認められたが、感受性の有無による陰性化率に有意差は認められなかった。ロジスティック回帰分析でも、AMK感受性株での陰性化率上昇傾向はあったものの統計学的に有意ではなかった(オッズ比1.667、95%信頼区間0.275–10.094、p = 0.578)。クラリスロマイシン(CLR)の感受性は89.6%に認められたが、CLR感受性の有無と陰性化率の間にも統計的有意差はなかった。
■また、AMK使用中の有害事象は36.7%に認められ、最も多かったのは聴覚障害(26.7%)であり、AMKとSMの間で有害事象の頻度に差は見られなかった。
■従来、アミカシンはin vitroではMACに対して高い活性を示すとされており、特に吸入ALISの有効性が報告されてきた。しかし、こうしたエビデンスの多くはMIC(最小発育阻止濃度)に基づいたin vitroの研究に限られており、臨床的なアウトカムとの直接的な関連は不明確である。(静注の場合)AMK MICが64μg/mLを超える場合、あるいは16S rRNAの変異を持つ場合には治療反応性が低いとされているが、現時点ではこれを裏付ける大規模な臨床データは不足している。また、AMKやSMの使用による治療効果は、薬剤単独の効果というよりも他薬剤(特にマクロライド系)との相乗効果の可能性も否定できず、本研究でもMICと治療反応性の乖離が確認された。
■MAC-PDに対するアミノグリコシド系薬剤の治療効果は、DSTによるAMK感受性と明確な相関を示さなかった。現行のガイドラインにおいて感受性に基づいた治療選択が推奨されているにもかかわらず、その根拠は限定的である。本研究は、DSTの臨床的有用性に疑問を投げかけるものであり、今後はより大規模で前向きな研究により、特定のサブグループ(例えばTDMを併用する重症例)における感受性試験の臨床的有用性を明らかにする必要がある。