ASPEN試験:気管支拡張症に対するブレンソカチブ


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気管支拡張症に対する治療はこれまで「存在しませんでした」。DPBに対するエリスロマイシンのエビデンスが外挿されたり、対症療法が適用されたり、強固なエビデンスがなかったのです。ブレンソカチブ以外にも上市が期待される薬剤もあり、気管支拡張症がいまアツイ!!





■気管支拡張症は、非嚢胞性線維症において慢性的かつ進行性の炎症性肺疾患であり、多様な原因と臨床像を持ち、日常生活において咳嗽や喀痰の持続などの症状が重く、急性増悪はQOLや肺機能を低下させ、全死亡率の上昇とも関連する。中でも好中球性炎症は、本疾患における「悪循環(vicious vortex)」の中心的要因とされており、この炎症性環境は好中球セリンプロテアーゼによって維持され、組織構造の破壊、粘液分泌の増加、宿主防御機構の抑制などを通じて疾患進行を助長する。

■ブレンソカチブは、これらプロテアーゼの活性化に必要なDPP-1(dipeptidyl peptidase 1)を可逆的に阻害する経口薬であり、本薬の有効性と安全性を評価するための国際的な第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(ASPEN試験)が実施された。この試験は、2020年11月から2023年3月までに世界35か国・390施設で実施され、1767例がランダム化された。最終的に10mg群583例、25mg群575例、プラセボ群563例がITT集団として解析対象となった。

■主要評価項目は、52週間における年間増悪率とされ、副次評価項目としては初回増悪までの時間、52週時点での無増悪率、1秒量(FEV₁)の変化、重度増悪の年間発生率、ならびにQOL評価(QOL-B RSSスコア)が含まれた。

■年間換算肺増悪率は、10mg群で1.02、25mg群で1.04、プラセボ群で1.29であった。これにより、プラセボと比較した率比はそれぞれ0.79(95% CI, 0.68–0.92, P=0.004)、0.81(95% CI, 0.69–0.94, P=0.005)と有意に低下していた。初回増悪までの期間においても両群とも有意に延長し、ハザード比は10mg群で0.81(95% CI, 0.70–0.95, P=0.02)、25mg群で0.83(95% CI, 0.70–0.97, P=0.04)であった。52週時点での無増悪率は、10mg群・25mg群ともに48.5%であり、プラセボ群の40.3%と比較して有意に高かった(率比 10mg群: 1.20, P=0.02; 25mg群: 1.18, P=0.04)。また、FEV₁の変化においては、プラセボ群で62mlの低下を示したのに対し、25mg群では24mlの低下にとどまり、その差は38ml(95% CI, 11–65, P=0.04)と有意であった。ただし、10mg群では11mlの差(P=0.38)にとどまり、有意ではなかった。

■安全性に関しては、全体の有害事象発生率や重篤有害事象、投与中止に至った事象の頻度は全群で概ね同等であった。最も頻度の高かった有害事象は、COVID-19、咽頭炎、咳嗽、頭痛であった(コロナ禍で実施されたため、評価項目にCOVID-19が含まれたこと自体が要因)。特記すべき副作用としては、皮膚の角化症(hyperkeratosis)があり、25mg群で3.0%と高頻度にみられた(プラセボ群では0.7%)。しかし、ほとんどは軽度または中等度であり、自然軽快または治療中止によって回復していた。

■ブレンソカチブは気管支拡張症患者において、従来のマネジメントに追加することで有意に増悪頻度を減少させ、特に25mg投与においては肺機能低下の抑制にも寄与することが示された。





by otowelt | 2025-04-25 23:34 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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