MATINEE試験:COPDに対するメポリズマブ

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GOLD2025ではすでにデュピルマブが推奨され、日本においても追加承認となっています。他の製剤も追随することが予想され、メポリズマブもその1つです。

■COPDの国際ガイドライン「GOLD2025」改訂、なんとデュピルマブ推奨へ(URL:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kurahara/202501/586974.html
■BOREAS・NOTUS試験統合解析:COPDに対するデュピルマブ(年間増悪率)(URL:https://pulmonary.exblog.jp/33508148/




  • 概要
■慢性閉塞性肺疾患(COPD)は進行性の呼吸器疾患であり、その臨床経過の中で増悪(exacerbation)は患者の予後、生活の質、医療費に多大な影響を与える。とりわけ、血中好酸球数が高値を示す好酸球性フェノタイプの患者においては、好酸球による気道炎症が増悪の主要因とされる。IL-5はこの好酸球炎症に中心的に関与するサイトカインであり、これを標的とする生物学的製剤メポリズマブの有効性が注目されてきた。

■MATINEE試験は、既にトリプル吸入療法(ICS/LABA/LAMA)を受けているCOPD患者を対象とした第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。対象者は過去に増悪歴があり、かつ血中好酸球数が300 cells/μL以上であったことが必須条件とされた。

■804名の患者が登録され、メポリズマブ100 mgまたはプラセボが4週間ごとに皮下投与された。追跡期間は52週〜104週である。

■主要評価項目である中等度または重度の年間増悪回数は、メポリズマブ群で有意に低下した(0.80回/年 vs 1.01回/年、率比0.79、95%CI 0.66–0.94、P=0.01)。また、初回増悪までの期間もメポリズマブ群で有意に延長しており、中央値は419日であった(プラセボ群321日、ハザード比0.77、P=0.009) 。 副次評価項目として患者報告アウトカム(CAT、SGRQ、E-RS-COPD)や肺機能(FEV₁)などが検討されたが、これらに関してはメポリズマブとプラセボとの間に有意差はみられなかった。たとえば、CATスコアの2点以上の改善はメポリズマブ群で41%、プラセボ群で46%であり、有意差を示さなかった(オッズ比0.81、95%CI 0.60–1.09)。緊急受診または入院を要する重度の増悪に関して、メポリズマブ群では0.13回/年とプラセボ群の0.20回/年に比して減少しており、統計学的に有意であった(率比0.65、95%CI 0.43–0.96) 。

■安全性に関しては、重篤な有害事象の発生率は両群間でほぼ同等であり(メポリズマブ群25%、プラセボ群28%)、死亡率も3%で一致していた。心血管イベントや悪性腫瘍の発生率にも有意差はなかった。特にアナフィラキシーや重大な局所反応も報告されておらず、安全性は概ね良好と評価された。

■この試験結果から、メポリズマブは好酸球性フェノタイプを有するCOPD患者において、従来の吸入療法に追加することで増悪を有意に減少させる治療選択肢となることが示唆された。なお、試験対象となった患者群は非常に選択的であり、本結果を広範なCOPD患者全体に一般化する際には慎重を要する。また、METREXおよびMETREOの先行研究では、メポリズマブの有効性は一部で認められたが、全体解析では統計的有意性が確保されていないことにも注意が必要である。今回のMATINEE試験では、対象を好酸球300 cells/μL以上に限定することで、より明確な治療効果が確認されたことが特徴である。 一方で、患者報告アウトカムや肺機能といった項目ではプラセボとの差が乏しかった点は臨床的に注目すべきである。増悪抑制効果があっても、症状やQOLの改善が直ちに反映されるとは限らず、生物学的製剤導入の判断には、単なる数値的改善以上の臨床的意義を慎重に検討する必要がある。 さらに、同様にIL-5経路を標的とするベンラリズマブや、IL-4/IL-13を標的とするデュピルマブについても、最近の臨床試験で好酸球高値のCOPD患者における増悪抑制効果が報告されており、今後はこれらを含めた比較・検討が重要となる。





by otowelt | 2025-05-03 00:58 | 気管支喘息・COPD

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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