ABPAにおける治療抵抗性スコア
2025年 05月 23日
■アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、気管支内に定着した真菌、主にAspergillus fumigatusに対する免疫応答により発症するアレルギー性気道疾患である。喘息や嚢胞性線維症などの基礎疾患を有する患者に好発し、IgEを産生し、好酸球性粘液栓を形成する。標準治療としては、中等量の経口ステロイド(OCS)やアゾール系抗真菌薬が4〜6か月間投与されるが、治療に抵抗性を示す症例も一定数存在する。
■本研究は、2020年に日本全国162施設で実施されたABPA全国調査に基づき、治療歴のないABPA患者316例を対象として実施されたものである。臨床的寛解は、PSL換算で5mg/日以下の最小限の治療下において6か月以上の安定状態を維持していると定義された。さらに、本研究では標準治療により寛解に至らなかった「治療抵抗性ABPA」の臨床的特徴を明らかにするとともに、その予測スコアの開発および検証を行った。
■解析対象となった316例のうち、標準治療を受けた189例において、6か月以内に寛解を達成できたのは76例(51%)であった。52例(35%)は最小治療状態に至らず、20例(14%)は寛解後6か月以内に増悪を認めた。このように、約半数の患者が初回治療での寛解に失敗し、治療抵抗性ABPAと判定された。これらの患者では、A. fumigatus特異的IgE値が高く(20 UA/mL以上)、喀痰や気管支洗浄液でのAspergillus培養陽性、胸部CT上のHAM、発症時年齢が50歳以下であることが、寛解達成失敗のリスク因子として同定された。多変量解析の結果、上記4因子はいずれも治療抵抗性と独立して関連しており、それぞれを1点とした合計4点満点の「治療抵抗性ABPAスコア」が作成された。このスコアに基づき、治療失敗率は0点で13%、1点で26%、2点で57%、3~4点で82%に達し、リスク層別化の有効性が示された。また、別の前向き登録研究においても同様の傾向が検証され、0点で17%、1点で15%、2点で50%、3~4点で58%と、予測スコアの妥当性が示唆された。
■治療法に関しては、189例のうち94例がOCS単独、18例が抗真菌薬単独療法、77例が併用療法を受けた。臨床的寛解率は、OCS単独群で62%、抗真菌薬単独群で38%、併用群で41%と、OCS単独療法の有効性が相対的に高いことが示唆された。一方、抗真菌薬単独療法は効果が限定的であり、再発率や治療抵抗性の観点からも併用療法の必要性が示された。増悪に関しては、189例中76例(40%)が中央値25か月の追跡期間中に1回以上の増悪を経験しており、そのうち50%は臨床的・画像的・免疫学的基準すべてを満たしていた。
■ABPAに対する標準治療は一部の患者では不十分であり、早期の層別化と強化された治療導入が予後改善に寄与する可能性がある。若年発症、高IgE値、気道真菌負荷の高さ、HAMの存在という4因子を用いたスコアリングは、実地臨床において簡便に使用できる有用なツールである。今後は、このスコアを活用した前向き介入研究の実施が期待される。
by otowelt
| 2025-05-23 00:06
| 呼吸器その他