喘息に対するトリプル吸入療法 SITTとMITTの比較

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日本におけるSITTのエビデンスです。海外ではSITT>MITTに関するエビデンスが多数あったのですが、ちゃんと国内のデータを使ってまとめられた、丁寧な論文です。


  • 概要
■日本における喘息患者を対象とした、フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム/ビランテロール(FF/UMEC/VI)単一吸入器トリプル吸入療法(SITT)と複数吸入器トリプルセラピー(MITT)の服薬アドヒアランスを比較検討した後ろ向き観察コホート研究である。

■本研究は、JMDCデータベースのDPCデータ(2021年2月18日~2022年2月28日)を用いて行われた。対象は、FF/UMEC/VIまたはMITTの初回請求日をインデックス日とし、インデックス日時点で15歳以上の喘息患者である 。

■アウトカムは、ベースライン期間中に吸入ステロイド含有薬の投与歴がない初期維持療法(IMT)としてFF/UMEC/VIまたはMITTを開始した患者、およびIMT以外(すなわち、ベースライン期間中に吸入ステロイド含有薬の投与歴がある)として開始した患者を含む「全体コホート」と、全体コホートのサブコホートである「非IMTコホート」の2つのコホートで評価され、逆確率重み付け法(IPTW)を用いて重み付けされた 。

■主要アウトカムは、インデックス日を含む3ヶ月後、6ヶ月後、および12ヶ月後におけるアドヒアランス良好患者の割合(治療薬カバー日数割合 [PDC] ≥0.8)とした 。

■全体コホートにおけるSITT群の平均年齢は42.2歳、女性比率61.0%であり、MITT群は42.6歳、62.0%と重み付け後にほぼ均衡していた。非IMTコホートでも両群間で年齢・性別をはじめとする背景因子は良好にバランスが取られていた。 アドヒアランス解析の結果、全体コホートにおけるPDC ≥ 0.8の達成率は、指標日から3か月でSITT群36.4%、MITT群31.2%(RR 1.16、95%CI 1.05–1.29、p = 0.003)と有意に高く、6か月および12か月後においても同様の傾向が認められた。

■PDC ≥ 0.5については、12か月後にSITT群15.8%、MITT群12.9%(RR 1.22、95%CI 1.01–1.47、p = 0.039)と有意差が確認されたものの、3および6か月後には両群間差は認められなかった。一方、平均PDCは各時点で両群間に統計学的差はなかった。非IMTコホートにおいては、PDC ≥ 0.8が3か月後にSITT群36.6%、MITT群28.9%(RR 1.26、95%CI 1.12–1.43、p < 0.001)と、より顕著な優位性を示し、6および12か月後でも同様にSITT群優位を示した。また、PDC ≥ 0.5では6か月後にSITT群37.6%、MITT群31.9%(RR 1.18、95%CI 1.05–1.32、p = 0.005)、12か月後にも優位性が維持された。これらの結果から、ICS含有薬歴を有する患者でも、単一吸入デバイストリプル療法が複数吸入器併用療法よりも高いアドヒアランスを示すことが示唆された。

■持続性解析では、全体コホートにおける治療中断までの中央値はSITT群54.0日、MITT群50.0日であり、非IMTコホートではそれぞれ58.0日および51.0日であった。いずれもSITT群でやや長い傾向が観察されたが、Kaplan–Meier曲線が3か月以内に交差したため、比例ハザード仮定の検証は困難であった。感度解析として中断期間を14日および60日に変更した場合や、柔軟投与量ICSの仮定を変更した場合でも、アドヒアランスおよび持続性の傾向は一貫していた。

■さらに、エリプタ吸入デバイスの使用経験がある患者では、使用経験のない患者に比べてPDC ≥ 0.8の達成率が3か月後に36.7%対19.2%(RR 1.91、95%CI 1.77–2.07、p < 0.001)と有意に高く、6か月および12か月後も同様の差が認められたことから、デバイスの使い慣れがアドヒアランス向上に寄与する可能性が示唆された。

■結論として、日本においてFF/UMEC/VI SITTを開始した喘息患者は、MITTを開始した患者と比較して有意に良好な治療アドヒアランスを示した。






by otowelt | 2025-06-03 00:04 | 気管支喘息・COPD

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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