DOAC服用患者における気管支鏡検査
2025年 05月 16日
粟野暢康先生の論文です!私のポケット呼吸器診療を高く評価してくださった動画を見てからというもの、勝手に親近感を持っています。
ちなみに、気管支鏡前にDOACを内服されている場合、当院では規定の内服中止期間があります。
Awano N, et al. In-Hospital Mortality after Bronchoscopy in Patients Receiving Direct Oral Anticoagulants and Those Who Were Not: A Matched-pair Cohort Study Using A Nationwide Japanese Inpatient Database. Intern Med . 2025 May 8. doi: 10.2169/internalmedicine.5253-25.
- 概要
■DOAC服用患者における気管支鏡検査の安全性について、全国規模の日本の入院患者データベースを用いて検討した研究である。本研究は、2010年7月1日から2022年3月31日までの期間に日本のDPCデータベースから収集したデータを用いた後ろ向きマッチドペアコホート研究である。
■気管支鏡検査を受けた患者のうち、DOACを服用していた603名(DOAC群)と服用していなかった187,827名(非DOAC群)を同定した。その後、施設、性別、年齢、治療年に基づいて1:4のマッチングを行い、DOAC群603名と非DOAC群2,320名を解析対象とした。
■主要アウトカムは全死因院内死亡率とし、副次的アウトカムは気管支鏡検査後28日以内の死亡率、気管支鏡検査後2日以内の人工呼吸器使用、気胸、出血、および検査後の血栓塞栓症とした。
■マッチング後のDOAC群と非DOAC群の患者特性を比較すると、DOAC群は男性が多く、近年DOAC治療の頻度が増加しており、心房細動がDOAC使用の主な理由であった。両群は性別、年齢カテゴリー、治療年について適切にマッチングされていた。DOAC群は非DOAC群と比較して、肺癌や間質性肺炎の一次診断の割合が有意に高かった。また、DOAC群は静脈血栓塞栓症や心房細動などの併存疾患を有する患者の割合が非DOAC群よりも有意に高かった。
■全死因院内死亡率はDOAC群で12.1%、非DOAC群で5.8%であった。また、DOAC群はすべての副次的アウトカムにおいて非DOAC群よりも高い発生率を示した。複合アウトカム(人工呼吸器使用、気胸、出血、および検査後の血栓塞栓症を含む)は、DOAC群で7.3%、非DOAC群で3.6%であった。
■多変量ロジスティック回帰分析の結果、DOAC群は非DOAC群と比較して全死因院内死亡率が有意に高く(オッズ比 = 2.84、95%信頼区間 = 1.77-4.55)、複合アウトカムの発生率も有意に高かった(オッズ比 = 2.14、95%信頼区間 = 1.21-3.76)。肺癌は死亡率と複合アウトカムの両方において有意に関連していた。
■本研究では、日本の約21万人の気管支鏡検査を受けた患者のうち、DOAC服用中に検査を受けた患者はわずか603名(0.29%)であり、これは日本で行われた以前のアンケート調査の結果と類似していた。しかし、近年、DOAC服用中に気管支鏡検査を受ける患者の割合は増加傾向にある。死亡率と合併症発生率はDOAC群で非DOAC群よりも高く、DOAC服用患者に気管支鏡検査を行う際には十分な注意が必要である。
■本研究にはいくつかの限界がある。まず、アウトカムの数が少ないため、経気管支肺生検や経気管支肺クライオ生検などの変数を多変量ロジスティック解析に含めることができなかった。次に、データベースには外来での気管支鏡検査に関する情報が含まれていなかった。また、気管支鏡検査を行う医師のスキルやリスク管理能力を評価できなかった。さらに、気管支鏡検査がDOAC服用患者の死亡リスクや合併症を直接増加させるかどうかは不明確であった。
■結論として、DOACは気管支鏡検査を受ける患者の死亡率および合併症と強く関連している。したがって、DOAC服用患者に気管支鏡検査を行う際には十分な注意が必要である。今後、DOAC服用患者と非服用患者の間での気管支鏡検査の転帰を比較する更なる研究が必要である。
by otowelt
| 2025-05-16 00:13
| 気管支鏡