ATS2025:BATURA試験 軽症喘息に対するas needed ICS/SABA
2025年 05月 21日
現在ATS2025が開催されています。トップジャーナルでは、学会で発表された演題の速報フェスティバルみたいになります。GINAの推奨もあって、ブデソニド/ホルモテロール一強時代と言われている現状、なぜBATURA試験でas needed ICS/SABAがトップジャーナルに掲載されるかというと、海外ではairsupraという合剤があってその評価が待たれていたという側面があります。ICSは軽症喘息に必要なのかどうか、という命題にも答えた貴重な臨床試験です。
- 概要
■軽症喘息患者の多くは短時間作用性β2刺激薬(SABA)による頓用治療のみを受けており、その多くが治療上「低リスク」とみなされがちである。しかし現実には、軽症あるいは症状頻度の少ない喘息患者においても重篤な増悪や死亡が一定数報告されている。SABAは気管支拡張作用のみをもたらし、気道炎症には対処しないため、増悪リスクの軽減には不十分であるという認識が広まりつつある。
■こうした背景から、Global Initiative for Asthma(GINA)は軽症喘息においてもSABA単独での使用を推奨しなくなり、吸入ステロイド(ICS)との併用によるレスキュー治療が重要視されている。
■過去には中等症から重症喘息を対象としたMANDALA試験において、ICSであるブデソニドとSABAであるアルブテロールの固定用量配合吸入薬を頓用することで、アルブテロール単独使用に比して重篤な増悪リスクが26%低下することが示されていた。しかし、軽症喘息におけるエビデンスは乏しく、本試験BATURAはそのギャップを埋めることを目的として実施された。
■BATURA試験は完全にリモートで行われた無作為化二重盲検並行群間比較の第3b相臨床試験であり、米国54施設から被験者を募集した。対象は12歳以上で、過去12か月にSABAのみ、あるいは低用量ICSまたはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を用いてもコントロール不良であった軽症喘息患者である。被験者は、180μgアルブテロール+160μgブデソニド配合吸入薬(2吸入でそれぞれ90μg+80μg)群と、180μgアルブテロール群に1:1で無作為に割り付けられ、最長52週間まで症状に応じて頓用吸入を行った。
■主要評価項目は「最初の重篤な喘息増悪」の発生までの時間(time-to-event)であり、副次的評価項目には増悪頻度、全身性ステロイド曝露量、AIRQスコア、QOL(EQ-5D-5L)などが含まれた。
■最終的に2516名がランダム化され、うち1797名(71.4%)が試験を完了した。97%以上が成人であり、74%がベースラインでSABA単独使用であった。事前に定められた中間解析の結果、主要評価項目において有意差が認められたため、試験は早期終了となった。重篤な増悪発生率は、アルブテロール–ブデソニド群で5.1%、アルブテロール単独群で9.1%と有意差があり(ハザード比0.53、95%CI 0.39–0.73、P<0.001)、ITT集団においても同様に有意差が確認された(5.3% vs. 9.4%、HR 0.54)。
■年間の重篤な増悪率はそれぞれ0.15回と0.32回であり(率比0.47)、全身性ステロイド年間総使用量も23.2mg対61.9mgと有意に低かった(相対差 −62.5%)。
■安全性については、いずれの群においても有害事象の発生率は同程度(42.2% vs. 43.5%)であり、上気道感染、COVID-19、鼻咽頭炎などが主であった。局所性副作用(カンジダ症など)の頻度はアルブテロール–ブデソニド群でやや高かったが(1.6% vs. 0.6%)、重篤な有害事象の頻度は両群ともに3.1%と低く、治療中止に至った有害事象もまれであった。
■BATURA試験は、軽症喘息に対する治療戦略に大きなインパクトをもたらした。アルブテロール–ブデソニド固定用量配合吸入薬を頓用することにより、従来のSABA単独治療に比べて重篤な喘息増悪リスクが有意に低下し、全身性ステロイドの使用量も抑制できることが示された。
■本結果は、GINAガイドラインのICS導入の提言を実証的に支持するものであり、特にSABAのみで治療中の患者群には早期の導入が推奨される。本研究により、軽症喘息においてもICSを含む頓用治療がSABA単独治療よりも重篤な増悪リスクを有意に低下させることが明らかとなった。特に注目すべきは、軽症とされる群においてもICSの追加が実臨床上のアウトカムに寄与する点であり、従来の「軽症=低リスク」という臨床認識に一石を投じる結果といえる。
by otowelt
| 2025-05-21 00:52
| 気管支喘息・COPD