ATS2025:COPDの診断基準が変わる!?
2025年 05月 22日
PRISmの論文も増えてきて、以前からも指摘されてきたことですが、COPDの診断基準がこれによって変わるかもしれません。
呼吸器内科領域ではインパクトが大きな研究です。
- 概要
■GOLDでは、スパイロメトリーによって評価された気流閉塞(FEV₁/FVC比 <0.70 または下限値未満)の存在がCOPD診断の絶対条件とされている。しかし、このような機能的評価のみでは、構造的な肺障害を見逃す可能性があることが、近年の研究で繰り返し報告されてきた。特に喫煙歴を有する人々では、スパイロメトリーで正常とされても胸部CT上で肺気腫や気道壁肥厚といった明らかな異常が観察されることがある。
■こうした背景のもと、本研究では、呼吸器症状・QOL評価・画像所見といった多次元的要素を統合した新たなCOPD診断スキーマを提唱し、その妥当性と臨床的有用性を多施設前向きコホートにおいて検証した。
■この研究では、アメリカのCOPDGeneコホート(N=9416)およびカナダのCanCOLDコホート(N=1341)を用い、新たな診断スキーマの適用によって患者分類の変化と臨床アウトカムとの関連を詳細に評価している。新スキーマは、診断基準を「主診断カテゴリー(Major)」と「副診断カテゴリー(Minor)」に分ける構造を採用している。図の通り。
■柔軟な診断基準設計により、従来は「COPD疑い」や「非特異的肺疾患」とされていた患者層をより明確に診断枠内に取り込むことができる。
■COPDGeneにおいては、既存のスパイロメトリー基準では非COPDとされた5250人のうち、15.4%(811人)が副診断カテゴリーにより新たにCOPDと診断された。また、スパイロメトリー上はCOPDと分類されていた4166人のうち6.8%(282人)は、新基準ではCOPDに該当しないと再分類された。再分類された新COPD群は、非COPD群と比較して全死亡率(HR=1.98)、呼吸器疾患による死亡率(HR=3.58)、増悪頻度(IRR=2.09)、FEV₁年間低下速度(−7.7mL/年)すべてにおいて有意に悪化していた。
■CanCOLDコホートでも同様の傾向が観察され、特に非喫煙者の割合が高いにもかかわらず、7.0%(48人)が新たにCOPDと診断され、16.0%(105人)がCOPDと再分類されなかった。死亡率の低さから有意差は認められなかったものの、新たなCOPD群における増悪頻度の上昇は明確であった。
■このスキーマの有用性は、GOLD stage 0やpreserved ratio impaired spirometry(PRISm)に分類される患者群の再評価にも及ぶ。
■COPDGeneにおいて、PRISmの26.4%、GOLD stage 0の12.4%が新スキーマでCOPDと再分類された。これらの群では、慢性気管支炎の頻度が高く、呼吸困難スコアやQOLスコアも悪化していた。呼吸機能障害のないにもかかわらず臨床的に重要なリスクを有する患者を新たに同定し、逆に症状や構造的異常を欠く軽度気流閉塞例を除外することで、診断の精度と臨床的妥当性を大きく向上させた。このスキーマは今後のCOPD診療の新たな標準となり得る可能性を秘めており、その実装と普及に向けた議論が待たれる 。
by otowelt
| 2025-05-22 05:21
| 気管支喘息・COPD