抗Ro52抗体陽性は間質性肺疾患の疾患進行リスク増加と関連
2025年 06月 10日
今井亮介先生らの論文。素晴らしいです。Sjögren症候群は、SS-A/Ro抗体が認識する抗Ro52抗体と抗Ro60抗体に分けられ、抗Ro52抗体陽性例は重症Sjögren症候群のサブセットと関連しています。
・参考記事:抗Ro52抗体と間質性肺疾患(https://pulmonary.exblog.jp/30504038/)
- 概要
■間質性肺疾患(ILD)患者における抗Ro52抗体の予後的意義について検討した大規模な後向きコホート研究である。抗Ro52抗体はRo52/TRIM21蛋白を標的とする自己抗体で、これまで様々な膠原病において臨床転帰の悪化と関連することが報告されてきた。しかし、膠原病の診断基準を満たさない患者を含むILD全般における抗Ro52抗体の意義については十分に検討されていなかった。
■2015年から2024年にかけてMGHのILD専門外来を受診し、抗Ro52抗体検査を受けた1,026例を対象とした。患者は抗Ro52抗体陽性群154例(15%)と陰性群872例(85%)に分類された。主要評価項目は、ILD進行または全死因死亡の複合エンドポイントで、ILD進行はILD関連入院、努力性肺活量予測値の10%以上の絶対低下、肺移植のいずれかと定義された。
■患者の年齢中央値は70歳、52%が男性であった。ILD病型の内訳は、自己免疫性特徴を伴う間質性肺炎(IPAF)が489例(48%)と最も多く、膠原病関連ILD(CTD-ILD)が132例(13%)、特発性肺線維症(IPF)が103例(10%)、過敏性肺炎が61例(6%)、その他の特発性ILDが241例(24%)であった。抗Ro52抗体陽性群と陰性群の比較では、陽性群の方が有意に若く(年齢中央値67歳 vs 70歳)、膠原病の合併率が高く(28% vs 10%)、筋炎特異抗体の陽性率も高い傾向にあった。
■抗Ro52抗体陽性群ではUIPパターンの頻度が低く、NSIPパターンが多くみられた(P<0.001)。治療に関しては、観察期間中央値25.6か月において、抗Ro52抗体陽性群では免疫抑制薬の使用頻度が高く(76.0% vs 57.0%、P<0.001)、一方で抗線維化薬の使用は陰性群で多かった(20.1% vs 28.6%、P=0.039)。これは両群の疾患背景の違いを反映していると考えられる。
■3年時点でのILD進行または死亡の累積発生率は、抗Ro52抗体陽性群で53.4%、陰性群で32.9%と有意差がみられた(P<0.001)。肺移植または死亡についても、陽性群で19.7%、陰性群で13.8%と陽性群で高い傾向にあったが有意差はなかった(P=0.498)。
■多変量Cox回帰分析では、年齢、性別、喫煙歴、慢性閉塞性肺疾患、ILD病型、ベースライン肺機能、UIPパターンなどの因子で調整した後も、抗Ro52抗体陽性はILD進行または死亡のリスクを2.10倍(95%信頼区間1.61-2.73、P<0.001)、肺移植または死亡のリスクを1.61倍(95%信頼区間1.11-2.35、P=0.014)有意に増加させることが示された。
■サブグループ解析では、ILD病型別に検討した結果、CTD-ILD群、IPAF群のいずれにおいても抗Ro52抗体陽性群で一貫してILD無進行生存期間の短縮が認められた。CTD-ILD/IPAF患者群を筋炎特異抗体の有無で層別化した解析でも、筋炎特異抗体陽性群、陰性群の双方において抗Ro52抗体陽性が独立した予後不良因子として機能することが確認された。興味深いことに、ILD進行の構成要素を個別に検討すると、抗Ro52抗体陽性群では陰性群と比較してILD関連入院の割合が高く(24.7% vs 9.1%)、これが主要な差の要因となっていた。
■肺機能の年間変化率については両群間で有意差はなかった。この結果は、抗Ro52抗体陽性患者では急性増悪がより頻繁に発生する可能性を示唆している。
■ILD患者における抗Ro52抗体陽性は、膠原病診断の有無や筋炎特異抗体の共存とは独立して、疾患進行と死亡リスクの有意な増加と関連することが明らかになった。
by otowelt
| 2025-06-10 00:23
| びまん性肺疾患