IPFにおける気胸のリスク因子
2025年 07月 06日
静的な所見としての低BMIや上葉のpleuroparenchymal thickeningに加えて、動的な指標である年間FVCおよびDLCOの低下が気胸の発症と関連していることが示されました。なお、本研究ではプレドニゾロンや抗線維化薬の使用と気胸との因果関係は明確には示されなかったものの、これらが創傷治癒を遅延させる可能性は専門家から指摘されています。
- 概要
■IPFは、原因不明の進行性間質性肺疾患であり、放射線学的および病理学的にUIPパターンを示す。急性増悪、肺高血圧、GERD、睡眠時無呼吸症候群、肺癌などがよく知られた合併症であるが、気胸も重要な合併症の一つである。気胸はIPFの経過中に比較的高頻度に発生し、その治療は困難かつ再発率が高く、時に致命的な転帰をとる。 既存の研究では、気胸の累積発症率が1年で8.5%、2年で12.5%、3年で17.7%と報告されており、気胸を発症した症例のうち胸腔ドレナージを要した症例では38%が院内死亡していた。また、IPFにおける気胸の発症リスク因子として低BMIやHRCT上の網状影の拡がりが指摘されているものの、多くは診断時の静的因子に限られていた。
■本研究は、IPFの診断時および診断後の臨床経過における気胸発症リスクを明らかにし、予防的介入に資する知見を得ることを目的とした。
■2001年から2023年にかけて倉敷中央病院で実施された164例のIPF症例を対象とした後ろ向きコホート研究である。すべての症例はATS/ERS/JRS/ALATのガイドラインに基づいてIPFと診断され、HRCT上UIPパターンを呈していた。診断からの経過中に発症した気胸の臨床経過を解析するとともに、気胸の発症リスク因子をFine–Gray比例ハザードモデルを用いて解析した。肺機能検査(FVC、FEV₁、DLCO)は診断時および6〜18か月後に行い、1年あたりの変化率(annual decline rate)を算出した。HRCT画像については放射線科医と呼吸器内科医2名が評価し、気腫、傍中隔気腫、pleuroparenchymal thickeningなどの所見を記録した。
■全164例中、30例(18.3%)が観察期間中に気胸を発症した。累積発症率は1年で6.6%、3年で13.9%、5年で13.9%であった。気胸を発症した30例のうち、4例(13.3%)が入院中に死亡し、再発は9例(30.0%)に認められた。ドレナージを要した23例のうち、5例は外科的介入、18例は胸膜癒着術を施行された。使用薬剤は自己血、タルク、OK-432、ミノサイクリン、50%ブドウ糖液であった。それぞれの成功率は55.6%、50.0%、66.7%、66.7%、22.2%(正しくは22.2%?論文は誤植?)であった。胸腔ドレーン留置期間の中央値は11.0日(6.0-17.5日)だあった。
■多変量解析の結果、気胸の発症はIPF全体の予後に独立して悪影響を及ぼす因子であることが示された(HR 3.74, p<0.001)。また、気胸発症のリスク因子としては、低BMI(HR 0.85, p=0.031)およびHRCT上の上葉のpleuroparenchymal thickening(HR 2.55, p=0.023)が有意であった。肺機能検査の変化に関しては、年間FVCおよびDLCOの低下率も気胸の発症と有意に関連していた(それぞれp=0.034, p=0.013)。
■IPF患者における気胸は、高頻度に発症し、再発や死亡のリスクを伴う重大な合併症である。低BMIおよび上葉pleuroparenchymal thickening、ならびに年間FVCおよびDLCOの低下は、気胸発症の独立した危険因子として認識されるべきである。
by otowelt
| 2025-07-06 00:34
| びまん性肺疾患