間質性肺炎の最新の分類提唱:ERS/ATSステートメント2025

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BIPはこれからもよく使われる用語になると思います。DADやAMPと似たような直感的なパターンです。反面、オールドファッションのUIPとNSIPはいまだに直感的に理解しづらい名前となっています。
新分類の意義
間質性肺炎の分類は、2002年および2013年にATS/ERSから公式に提示されたが、今回2025年のアップデートは10年ぶりの大きな改訂である。これまでの体系は「特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias, IIPs)」に限定されていたが、新分類では二次性を含めたあらゆる間質性肺炎を包括しうる枠組みとなった点が最大の特徴である。臨床現場では膠原病関連ILDや過敏性肺炎(HP)、薬剤性肺障害など二次性の病態に遭遇する頻度が高く、これらを除外的に扱ってきた従来の枠組みは実際の診療と乖離があった。新分類はその乖離を埋め、原因の如何を問わず、形態学的なパターンを基軸に整理する体系となった。

さらに今回の改訂では、「線維化」と「非線維化」の二軸を導入した点が重要である。これは予後や治療方針、特に抗線維化薬の使用可否を考えるうえで臨床的に極めて有用である。UIP(usual interstitial pneumonia)や線維化性NSIPに代表される線維化病変は進行性で予後不良であり、近年の臨床試験で抗線維化薬が有効であることが示されてきた。他方、非線維化病変は免疫抑制療法への反応性が高く、治療選択が異なる。したがって線維化軸での亜分類は、日常診療に直結する実践的な変更である。


新しいパターン
今回の改訂では3つの主要な用語変更が行われた。第一に「細気管支中心性間質性肺炎(bronchiolocentric interstitial pneumonia, BIP)」の新設である。従来HPに代表される気道中心性の変化として扱われてきたが、原因に依らず共通して認められる形態としてBIPが独立した。HP、膠原病関連ILD、薬剤性など幅広い病態で観察されるため、パターンと診断を明確に切り分ける意義がある。UIPやNSIPと並ぶ「三大線維化パターン」として整理されたことで、MDDにおける言語統一が期待される。

第二に「急性間質性肺炎(AIP)」という用語が「特発性びまん性肺胞障害(idiopathic diffuse alveolar damage, idiopathic DAD)」へと変更された。AIPは急性発症を強調する一方で、他の病態でも急性増悪に伴ってDAD像を呈するため、混乱を招きやすかった。idiopathic DADとすることで「原因不明のDADパターン」という病理学的実態を強調することとなった。

第三に「剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia, DIP)」は「肺胞マクロファージ肺炎(alveolar macrophage pneumonia, AMP)」へと改称された。剥離性という用語は肺胞上皮の脱落を想起させるが、実際の本態はマクロファージの充満であり、この変更は病理像をより正確に反映する。AMPは喫煙関連や薬剤性など背景が多様であり、RB-ILDとの連続性も意識される。

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分類体系の構造
新分類の基本構造は、まず大きく「間質性」と「肺胞充満性」に二分される点にある。間質性病変はさらに「線維化性」と「非線維化性」に細分類され、臨床的意味付けが明確化された。一方、肺胞充填性はOPやAMPに代表され、細胞や物質の充填が主体となるパターンである。たとえばUIPは典型的には線維化型間質性パターンに属し、画像では両側下肺優位の蜂巣肺を呈する。NSIPは線維化型と非線維化型に分かれ、後者は免疫療法に反応しやすい。BIPも線維化型・非線維化型の双方が存在し、臨床経過や曝露歴の解釈と結びつける必要がある。PPFE、LIPも間質性に含まれるが、病態によっては肺胞充填性との境界を持つ。

この構造化により、診療現場でまず「線維化性か否か」を判定することが診断と治療選択の最初の分岐点となる。実際、抗線維化薬が適応となるのは線維化性で進行性を示す病態であり、今後の診療アルゴリズムが明瞭化する。

新分類では、診断の「確信度(diagnostic confidence)」を明示することが推奨された。これは臨床現場においてしばしば診断が不確実であることを前提とし、その不確実性を定量的に共有する仕組みである。 具体的には、90%以上を「高確信(confident)」、51–89%を「暫定(provisional)」、50%以下を「分類不能」と定義する。さらに暫定の範囲を70–89%(high provisional)と51–69%(low provisional)に分けることも可能である。このアプローチは、追加検査の要否や経過観察の優先度を多職種で共有するうえで有用である。






by otowelt | 2025-08-26 01:27 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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