日本の肺MAC症の「暫定的診断基準」は妥当か?
2025年 09月 03日
胃液が有用であることを示した研究です。学会からの暫定的診断基準が出されたのが2024年なので、執筆速度がかなりはやいです。
国際的に日本の診断基準が広まっていくことが望ましいと私自身も思っています。
- 概要
■肺MAC症の診断基準では、痰培養検査において2回の陽性結果が必要とされており、これが診断遅延の主要な要因となっている。痰の採取が困難な患者、特に高齢女性や痩せ型の患者では、十分な量の痰を得ることが難しく、仮に採取できても菌量が少ないために培養陰性となることが多い。
■このような患者では気管支鏡検査が代替手段として考えられるが、侵襲性や患者の身体的負担を考慮すると、すべての患者に適用することは現実的ではない。こうした臨床現場の切実な課題を背景として、日本結核・非結核性抗酸菌症学会は2024年に新たな暫定診断基準を提案した。この基準では、痰培養1回陽性に、胃液培養1回陽性あるいはGPL-core IgG抗体陽性の組み合わせによる診断が可能となり、従来の診断基準の制約を緩和することが期待されている。
■胃液培養検査自体は、結核の診断において長年にわたり活用されてきた確立された手法であるが、肺MAC症における有用性については十分な検証が行われていなかった。
■研究期間は2014年4月から2022年3月までの8年間で、画像所見で肺NTM症MAC症に合致する所見を有し、かつ胃液培養でMACが検出された125名の患者を対象とした(従来の肺MAC症ではない点に注意)。胃液の採取は、高張食塩水吸入による誘発喀痰でも検体が得られない場合や、繰り返し施行した痰培養が陰性の場合に、主治医の判断で実施された。培養はMGITにて行い、菌種の同定は質量分析法で行われた。また、検査前夜から水道水の摂取を控えるという汚染防止策も講じた。
■研究における診断基準は、従来の診断基準に加えて、新たに暫定診断基準(Provisional diagnostic criteria)と仮診断基準(本研究のために考案された基準:Tentative diagnostic criteria)が設定された。従来基準は痰培養2回陽性または気管支洗浄液1回陽性、暫定基準は痰培養1回陽性で、抗GPL-core IgA抗体陽性または胃液培養1回陽性、仮診断基準は胃液培養1回陽性かつ抗GPL-core IgA抗体陽性、または胃液培養2回陽性と定義された。この多段階の診断基準設定により、胃液培養の診断能力を多角的に評価した。
■対象患者125名の平均年齢は65.9歳、平均BMI 19.32 kg/m²である。受診動機は、胸部異常陰影が68例(54.4%)と最多であった。呼吸器症状を有する患者は57例(45.6%)であり、最も頻度の高い症状は咳(39例、31.2%)であった。画像所見については、結節・気管支拡張型が106例(84.8%)と多数を占めていた。抗GPL-core IgA抗体の陽性率は69例(55.2%)でった。
■従来基準を満たした40例について、仮診断基準から従来基準まで平均1,077.7日、暫定基準から従来基準まで平均605.3日を要していることが示された。
■全体では106例中62例(58.5%)でマクロライド系抗菌薬を含む多剤併用療法が施行され、培養陰性化は51例(82.3%)で達成された。診断基準別の治療開始率を見ると、従来基準群で80.0%、暫定基準群で53.8%、仮診断基準群で40.0%となっており、診断の確実性が高いほど治療開始率も高くなる傾向があった。仮診断基準群において多剤併用療法を開始した16例全例で培養陰性化が達成された。
■多くの症例が従来の診断基準では診断されず、早期治療の機会を逸していた。胃液培養を用いた診断により、診断の遅れが大幅に減少し、早期治療開始が促進され、良好な転帰が得られた。
by otowelt
| 2025-09-03 05:24
| 抗酸菌感染症










