肺MAC症に対する低用量エタンブトール

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低用量エタンブトールの論文です。日本では「切り捨て」での計算が主流ですが、それを補完する結果となっています。高用量のほうが治療失敗率が数値上高めに見えましたが、統計学的には有意差はありません。視神経症は回避したいところですね。


■MAC症治療においてエタンブトールは推奨される第一選択薬であるが、視神経症を引き起こす可能性がある。低用量エタンブトールが有効性を損なわずに視神経症の発生率を低下させる可能性が過去の研究で示唆されていたが、視神経症のリスク因子に対する十分な調整は行われていなかった。

■本研究は、2003年4月から2024年7月の間に亀田メディカルセンターでMAC症の治療を受けた患者を対象とした後ろ向きコホート研究であ 。患者をエタンブトールの用量に基づき、低用量群(12.5 mg/kg/日未満)と高用量群(12.5 mg/kg/日以上)に分類した。

■主要評価項目は視神経症の発生率であり、副次評価項目は培養陰性化の失敗およびマクロライド耐性とした。傾向スコアに基づくオーバーラップ重み付けを用いて患者の特性(年齢、腎機能、併存疾患など)を調整し、ブートストラップ法※により生成したデータセットを用いて比較を行った。

※欠損値に対し多重代入法によるデータセットの多重補完を行い、各補完データセットに対して200回のブートストラップリサンプリング(計10,000サンプル)を実施。

■対象患者223例のうち、79例が低用量群(平均10.7 mg/kg/日)、144例が高用量群(平均15.4 mg/kg/日)の投与を受けた。

■補完前の生データにおいて、低用量群ではエタンブトール誘発性視神経障害を発症した患者はおらず(0/79例、0%)、高用量群では7例(4.9%)に発症が認められた。排菌陰性化失敗は低用量群7例(8.9%)、高用量群15例(10.4%)であったが、低用量群の16.7%、高用量群の34.8%が喀痰喀出困難であり排菌陰性化の評価が不能であった。マクロライド耐性は低用量群で0例、高用量群で2例(1.4%)に発現した。 ブートストラップ法で生成したデータセットに基づく調整後解析では、視神経障害の発症リスクは低用量群で有意に低く、リスク差は−17.1%(95% CI: −32.9%〜−5.4%)であった。一方、排菌陰性化失敗のリスク差は−20.0%(95% CI: −45.6%〜2.5%)、マクロライド耐性のリスク差は−4.9%(95% CI: −13.5%〜0.0%)であり、いずれも群間で有意差はなかった。

■患者背景の調整後、視神経症のリスクは低用量群で有意に低かった(リスク差:-17.1%、95%信頼区間:-32.9%〜-5.4%) 。一方、培養陰性化の失敗(リスク差:-20.0%、95%信頼区間:-45.6%〜2.5%)およびマクロライド耐性の発生(リスク差:-4.9%、95%信頼区間:-13.5%〜0.0%)については、両群間で有意差はなかった。

■低用量エタンブトール療法は、治療成績を損なうことなく視神経症のリスクを軽減する可能性があり、MAC症に対するより安全な治療選択肢を提供できる。本研究は連日療法を必要とするMAC-PD患者に対し、エタンブトール用量を意図的にやや低く設定する戦略に一定のエビデンスを付与するものである。ただし、BMIが比較的低い日本人集団でのデータであることから、体格の大きな患者集団への外挿には注意が必要であり、肥満患者における至適用量(調整体重 vs 理想体重 vs 実体重に基づく計算)は今後の検討課題として残されている。





by otowelt | 2026-03-05 02:28 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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