気管支拡張症におけるAZU1

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AZU1なら血中・喀痰のいずれでも定量しやすく、ELISAベースという点も考慮すると、薬力学マーカーや治療反応性予測マーカーとしての応用が現実味を帯びますね。




■気管支拡張症は感染、炎症、粘液線毛クリアランスの破綻を特徴とする慢性気道疾患であり、好中球性炎症、とりわけ好中球エラスターゼをはじめとするセリンプロテアーゼがその病態形成に深く関与することが知られている。2025年に米国で承認されたDPP-1阻害薬ブレンソカチブは、骨髄での好中球成熟過程においてセリンプロテアーゼN末端のジペプチドを切断するDPP1を抑制することで、エラスターゼ、プロテイナーゼ-3、カテプシンGの活性化を阻害し、増悪を有意に減少させる。しかしDPP1の基質特異性はこれら3つの古典的プロテアーゼより広く、臨床効果がそれ以外の経路を介する可能性が指摘されてきた。

■先行研究において、DPP1阻害が好中球内のazurocidin-1(AZU1; heparin-binding protein、CAP37とも呼ばれる)を強力に減少させることが見出されている。AZU1は好中球のアズール顆粒および分泌顆粒に貯蔵される抗菌性糖タンパクで、構造的にエラスターゼと類縁だがアミノ酸2残基の違いによりプロテアーゼ活性を欠くpseudoenzymeであり、単球走化性、内皮活性化、血管透過性亢進作用をもち、敗血症や囊胞性線維症の重症度マーカーとして注目されてきた。

■本研究はAZU1が気管支拡張症の重症度・感染・増悪・上皮防御障害にどう関わるか、そしてDPP1阻害により制御可能な治療標的となりうるかを多角的に検証することを目的とした。


■EMBARC BRIDGE cohort 1(n=197、安定期気管支拡張症)では喀痰AZU1濃度(ELISA、log₁₀ µg/mL)とbronchiectasis severity index、%FEV₁、年間増悪頻度との関連が検討された。EMBARC BRIDGE cohort 2(n=144)ではQoL-B症状スコア、修正Reiffスコアによる高分解能CT評価、喀痰中の炎症メディエーター、long-read 16S rRNA microbiome解析を加えた。EMBARC cohort 1の増悪症例(n=96)では国際コンセンサス基準に基づく増悪時のAZU1を測定し、細菌、ウイルス、細菌+ウイルス、好酸球性、不明のエンドタイプで比較した。COPDコホートとしてTARDIS cohort(n=101)を用いてGOLD分類との関連と短鎖16S解析を実施した。さらにrhinovirus A16ヒト曝露モデル(COPD 9例、現喫煙者9例、非喫煙コントロール8例)でベースライン、day 5、day 9、day 42の経時変化を追跡した。


■in vitroでは健常者および気管支拡張症患者由来の鼻腔上皮を気液界面培養し、リコンビナントAZU1 500 µg/mLを頂端側に投与して線毛運動(高速度ビデオ顕微鏡)、transepithelial electrical resistance(TEER)、蛍光ビーズ透過性、上皮構造(F-actin染色)、RNA-seqによる遺伝子発現を評価した。


■第II相WILLOW試験(ブレンソカチブ10 mg、25 mg、placebo各群、24週投与)のpost-hoc解析として、ベースライン、week 4、week 24、week 28の喀痰AZU1濃度とベースライン・week 4のプロテオミクスを比較した。


■EMBARC cohort 1において、喀痰AZU1濃度はBSI増加に伴い上昇し(p<0.0001)、%FEV₁と負の相関(r=−0.4662、p<0.0001)、過去12か月の増悪頻度と正の相関(p=0.0019)を示した。cohort 2ではAZU1高値はQoL-B症状スコア低下(r=−0.23、p=0.01)、Reiffスコア上昇(特に浸潤影および粘液栓を伴うCT所見と関連し、気管支壁肥厚との関連は乏しかった)。


■AZU1は喀痰好中球エラスターゼ(r=0.67)、プロテイナーゼ-3、IL-8と強く相関したが、IL-4、IL-5、IL-17A、IFN-γとは関連がみられなかった。マイクロバイオーム解析ではAZU1高値群でShannon α多様性が有意に低下(p=0.0056)し、緑膿菌およびインフルエンザ桿菌が優勢で、低値群ではRothia mucilaginosaが相対的に優位であった。


■増悪解析では細菌/ウイルス/細菌+ウイルス増悪でAZU1が高く、好酸球性・不明の増悪では低値だった(p=0.0003)。TARDIS COPDコホートでもGOLD群間でAZU1差が認められ(p=0.022)、特に年2回以上増悪群で上昇していた。ライノウイルス曝露モデルではCOPD群のAZU1がベースライン50 µg/mLからday 9に590 µg/mLへ上昇(p<0.001)、喫煙コントロール・非喫煙コントロール群では変化を認めず、AZU1変化量は喀痰ウイルス量(r=0.74、p<0.001)および上気道症状スコア(r=0.51、p=0.03)と相関した。


■in vitroではAZU1添加により線毛拍動数が約20%(−2.988 Hz)低下し、振幅・拍動角も縮小、洗浄後に可逆的に回復したことから細胞死ではなく機能障害が示唆された。


■TEERは添加20秒で87%まで急速低下、4時間で蛍光ビーズの基底側移行が増加し、上皮構造はF-actinの凝集と細胞脱落を伴って明らかに破綻した。RNA-seqではPLAUR、HBEGF、AREG、CXCL8など修復・遊走・好中球遊走関連遺伝子の上昇がみられ、上皮損傷とそれに対する修復応答のシグネチャーが描出された。


■WILLOW試験プロテオミクス解析では、week 4にプラセボと比較して最も強く減少したタンパクがAZU1であり(FDR<0.0001)、カテプシンGや代謝・骨格関連蛋白の変化を上回った。ELISAでもブレンソカチブ両用量群でAZU1がweek 4から有意に低下し、week 24まで持続、休薬後week 28に部分的に回復した(p<0.0001、線形混合モデル)。


■AZU1は気管支拡張症およびCOPDの重症度・症状・気道感染・微生物叢の増悪と一貫して関連する新規バイオマーカーであり、線毛運動障害および上皮バリア破綻という気道防御の中核機構に直接作用する病原性メディエーターである。ブレンソカチブは喀痰中AZU1を最も強力に減少させる薬剤である。






by otowelt | 2026-05-22 00:32 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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